複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.189 )
- 日時: 2012/10/17 20:09
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
23・酔うような空気。
酒。その単語を聞いたのはもう久しぶりだった。私はその単語に心臓を震わせる。
酒とは、あれだな、あの、アルコールとかいう奴が入った辛いとか旨いとかよく分からない飲み物だな。
私の意見も無しに、どんどん話は進んでいく。ライアーが席を取って、ジャルドとカンコが酒を頼みに行っている。私はライアーとともに席に座った。
しばらくして、店員とジャルドとカンコが席に来た。
「シェリア」
ジャルドが女の人のような名前を言って、店員が紙にペンを走らせる。続いて、カンコが有名なジュースの名前を言って、ライアーが次にジャルドと同じ名前の物を言った。
ライアーは私に視線を向けて、首をかしげる。
私は酒なんてものは呑んだことは無いから、ただおどおどするだけ。それを察してくれたのか、ライアーが店員の方を向く。私はなんだか恥ずかしくて視線を落とした。
カンコはそんな私さえもじっと見ている。
「あーと、アベンダで」
私はカンコの方を向いて、とりあえず微笑んでおいた。照れ臭かったからだ。私のことをなんでこんなに見るのかは分からない。初対面だからという訳じゃないだろう。私という人間が分からないからなのだろうか。
私の微笑みにカンコは少しぎょっとしたようにして、鼻で私を笑う。それだけだった。私に対する反応はただ、それだけ。
私は堅い椅子の感触に慣れなくて、尻の位置を移動させた。
「相変わらず、ジャルドお酒弱い」
カンコは私にはもう視線を向けなかった。ジャルドに向かって、おかしそうに声を掛ける。シェリアというお酒は話を聞くにどうも、そんなに強いお酒ではないらしい。だから、女の人が飲みやすいように可愛い名前だったんだ。
私も、ライアーの方を向いて、口に手を当てて小さく笑った。
「ライアーさんも、ですね」
私にそんなことを言われて、ライアーは一瞬だけ悔しそうに唇を噛んで、頬を赤くさせた。変なことを言ってしまっただろうか。私はそれでも、なんだかこの場の空気に任せて、言ってしまった。この、なんだか仲良しみたいな感じ。
こんなに大勢で、テーブルを囲むのは久しぶりだ。お姉さんと私とライアーでカフェに入ったことはあるけど、今日は四人だし。二人だったら、言えないことだと思う。生意気な雰囲気のカンコがいること。ライアーの友達であるジャルドがいること。
それすべてが、私の気分を柔らかくしてくれている。この空気、好きだ。みんながみんな、仲良し。
「軽く酔うのが好きなんだよ、なーぁ、ライアー」
そういって唇を歪めたジャルドは、こくこくと首を縦に振るライアーの肩に、親しげに腕を回した。
〜つづく〜
二十三話目です。
お酒って可愛いですよね、なんか。