複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.191 )
- 日時: 2012/10/18 15:27
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
25・人間じゃないような二人。
そろそろ腰が痛くなってきた。
低い姿勢を保つことはどうしても辛くて、露出した肌につく金属のような冷たい感触と、埃っぽい感じが不愉快で、何度も体勢を変える。でも大きく変えられるだけのスペースもないから、気休めのようなものだ。
ちらりと視線を隣に向けると、一ミリも体を動かしていないで涼しい顔をしている男がいる。コイツは何にも感じないらしく、暇そうに床に顎を付けていた。
私の方が露出している部分は多い。
私はため息をつきそうになって、堪えた。私たちがここを動けないのには理由がある。本当は、地面を離れて、しばらくしたら動くはずだった。でも、予想外の出来事が起きた。私たち二人が身を顰めている船の底は、船とギガントを支える大切な部分と面しているらしく、先ほどからメンテナンスをするためなのか作業着をした人間が懐中電灯を持ってうろうろしていた。
なんで、私たちにこんな大事な役目を託したのだろうか。私の頭では考えられないような大きなことをあの人は思っているのだろう。だから、考えるのは止めだ。ただ私たちは考えずに、あの人に従えば良い。それだけの命。
私は揺れる懐中電灯の光を追っていた。くだらない話をしながら、それでも丁寧に点検をしていく人間。
ここでこの人間を殺してしまうと、面倒なことになる。あの人は殺せという命令は出していないから。
退屈だ。早くいなくならないかな。
私は退屈で、隣の男と同じように顎を床に着ける。
全身の力を抜いて見る。すると、何もかもがどうでも良くなってきた。そしてしばらくすると、点検が終わったようで懐中電灯の光が消えて、足音と話声が遠ざかっていった。
私は何だか入り組んだパイプの下から這い出す。男も同じようにしているようだ。
目が慣れない。さっきまで光があったから、周りは真っ暗だ。
「ねぇ、見える?」
私は確認をするように男がいるであろう方向に手を伸ばす。すると、その手を誰かが掴んだ。手袋のようだ。間違いなく、さっきまで私の隣にいたあの男だ。
私も手袋をしてくれば良かった。
私はとりあえず片方の手で服を払ってほこりを落とす。それから、男は私の手を掴んだまま歩き出した。
私は手を引かれて歩いていく。男の靴が床を叩く音と、私の呼吸の音、それから私の服が擦れる音しか聞こえない。
この男は、息を殺している。というより、癖なのだと思う。音もなく息をするのが。
そんなこの男とペアを組ませられた時は正直、いつも愚痴っていた。相槌が上手くて、話をしっかり聞いてくれてそれでちゃんとしたアドバイスをくれて、励ましてくれる友人と言えば友人だけど、そんなに親しくない男に。
その男は綺麗なマリンブルーの目をしていて、私は心底それが羨ましかった。
顔も良いし、性格も頼れて良いと思う。だけど、あのマリンブルーには一つだけ、欠点があった。奴は男が好きなのだ。
私は頭の中を冷やした。
失敗は許されない。
「行くよ、ヒダリ」
雷暝様の機嫌を損ねたら、殺される。
〜つづく〜
二十五話目です。
また二人新キャラ。