複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.192 )
日時: 2012/10/19 20:28
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



26・快楽のような熱。


お酒を含んで、少し熱くなった体を冷まそうと、私たちは風が強い屋上へと足を運んだ。風が私たちの体を裂くように吹き付ける中、私たちは床に腰を下ろした。
寒いけど、大丈夫。
柵はそれほど高くない。ここに出る人間はかなり少ないようだし、落ちても責任を取るつもりはないのだろう。
私は凍りつくように冷たい柵に手をついて、下を眺める。ギガントの頭が見えるのかと思って居たけれど、ギガントの頭より少し出っ張っている位置にこの屋上は作っているらしく、下の景色は見る事ができる。
しかし、雲より上を飛んでいるせいか、その視界は白く、時折緑の大地が見える程度だ。私は何だかがっかりして、柵に背中を預ける。でも冷たいからやめた。
どっちかというと手袋の方が布は厚い。高かったからなぁ、これ。
私の横で、カンコは興味がなさそうに下を眺めていた。
私よりも背は低いけど、余裕で柵は越えている。柵は私の腰くらい。カンコは私の胸くらい。

「いやあ、お酒がこんなに気持ちが良いものだとは知りませんでした」

今まで興味も抱いてこなかった。お父さんもお母さんも、お金の無駄だって言ってお酒は飲まなかったから、酒は身近な物ではなかった。見る機会もなかったくらいだから、まさか私が酒を飲むという経験をするなんて、夢にも思わなかった。

淡く熱を帯びた頭と体。皮膚の細胞一つ一つが、温度を楽しみ、手を取り合って歌っているようなそんな感覚。風が肌を撫でるたびに、体の熱と調和して心地良い。油断をしたら眠ってしまいそうだった。
私は決心をして策に背中をつける。冷たいけど、やっぱり気持ちが良い。

体を仰け反らせる私をカンコはじっと見ていたけれど、私の首に手を伸ばして首を傾げた。

「これ何?」

私の真似をしてか、ジャルドが完全にネクタイを緩めてシャツをズボンから出して同じような体勢を取り始める。
ライアーはそんな私たちを冷めた目で一瞥したきり、ずっと下の景色を楽しんでいる。
カンコは私の首にかかっている白いネックレスを指さした。
私はカンコの手が届くように柵から背中を離して身を屈めた。

「これはね、クイーン・ノーベルが私にくれたものだよ」

私の言葉にカンコは目を丸くした。
この反応から、クイーン・ノーベルの事は知っているのだろう。何だか誇りに感じる。
クイーン・ノーベルが私にくれたものか。私の視界の下で光を放ち続けるネックレス。いつ見ても美しい。
カンコはそれにそっと指先を触れさせた。

「……凄いね、あの人は」


〜つづく〜


二十六話目です。
なんだか書きにくいなあ