複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.193 )
日時: 2012/10/20 11:08
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



27・異端のような偉大。


クイーン・ノーベルは、凄いと思う。
私はそれに触れた時、それを確信した。私の指先に、光が絡み付くようにしてから、やがて離れていく。それが繰り返されている。私の指先で起こる、それ。私はそれに目を奪われて居た。
凄い、凄い。これだ。このネックレスだ。このネックレスがあるおかげで、この赤女の嫌な感じが無くなっているんだ。いや、無くなって居るわけじゃない。ただ、抑えられて居るみたいだ。凄いな。
赤女も私と同じようにネックレスに触れている。赤女にこのネックレスを渡したと言うことは、クイーン・ノーベルも感じたのだろう。この女の嫌な感じを。この嫌な感じの正体も、分かって居るのだろうか。だとしたら、教えて貰いたい。私はただ嫌な感じがすると言うことだけで、その正体は分かって居ない。
凄い、あの魔女は。流石、トリシタンを封印した魔女だ。トリシタンは、すごい魔女であった。レッドエイジを追いかけ続けて、ついにはレッドエイジを復活させる寸前まで来ていたと言う。それを、クイーン・ノーベルは封印した。トリシタンが封印されるまで追いかけてきたレッドエイジ。
私にはその価値は分からない。でも、トリシタンがあれほどに執着するほどの魅力があの時代にはあるんだと思う。

「なんで、こんなもの私に渡したんだろう」

この女は、自分が持っている嫌な感じに気が付いていないようだ。
私はネックレスから指を離して、首を振った。
コイツに『お前から嫌な感じがする』なんて言ったって分からないだろうから。
私に女は笑いかける。私がこんなことを思って居るなんて、思わないだろうな。コイツはバカそうだから。
ただ、コイツの黒髪と黒い目は、すごく美しい。ただの黒じゃない。黒以外に色彩は無いけれど、黒という色が無限に広がって、少しずつ色を変えていく。空気を吸い込んでいくような、色。黒という言葉だけで表現できる色じゃない。これは、黒だけど、黒じゃない。黒以上の黒。

「おーい、あのーすいませーん」

人が来たことに気が付いて、女が背筋を立てる。ジャルドが素早くネクタイを絞めて、シャツをズボンに入れる。ライアーは体勢を変えずに顔だけ声の方に向けた。
声は、屋上に出る入口から聞こえてきた。女の声のようだ。女にしては低いけれど、棘があるような声。

「はい、どうかしましたかー?」

赤女が声の方に手を振って応える。それを返すようにに、低い声の女も手を振った。
女は綺麗に切られた長い髪を後ろで一つにまとめていて、頭にはベルトのような髪留めをしていた。服装は軽そうで、その辺の町に居そうな普通の人。
五段くらいの階段の上に立って私たちを見下ろすようにしている。そこから動く気は無いようだ。

「いやー、赤い嘘吐きって誰ですかー?」


〜つづく〜


二十七話目です。
ここまで書いているとどうしても終わりが怖いですね。
これ、最終回になったら全員、死んじゃうんですね。
いや、物語の中じゃなくて誰の記憶にも残らず消えちゃうんだなあっていう意味での「死ぬ」です。