複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.194 )
日時: 2012/10/20 13:20
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



28・人形のような男。


女の人は栗色の髪を風になびかせていた。
見たことのないベルトのような髪留めのおかげで、私ほどは髪はなびいて居ない。少し斜めに切ってあって、そこがおしゃれな感じだ。
髪の先だけを揺らしている彼女は、釣り目だけど顔は悪くない。きゅっと結んだ唇はどこか、彼女の印象を固くしていると思う。
彼女の隣には背の高い人が立っている。背格好からして男の人だとは思うけれど、深く被ったフードのせいで、顔はよく見えない。
真黒なコートを着ている背の高い人と栗色の髪の女性は全然釣り合っていない。

「……俺だ」

ライアーが直接名乗り出るのはちょっと意外だった。
でも考えれば彼はそう呼ばれることを嫌がってはいない。目立つのはてっきり嫌いだとは思っていたけれど、別にそうじゃ無いらしい。呼ばれて丁寧に答えてはいる。でも、どうやら警戒はしているみたいだ。
確かに栗色の髪の女性はともかくとして、隣の人が気になる。
でも、今まで俯いていたその人が、顔を上げた。
ライアーの声に反応したのか全く分からないタイミングだった。彼の髪は濃い紫だった。濃すぎて黒に近い。
ここから彼までは結構な距離があるけれど、辛うじて紫だとわかる。フードのせいで正確な長さは分からない。彼の口元も、栗色の髪の女性と同じようにきっちりと結んである。

「あー、どうもこんにちは。私、ロム。こっちがヒダリ」

ロムと名乗った栗色の髪の女性は、丁寧にお辞儀をした。決して優雅だとは言えないけれど、それでも丁寧に。
ヒダリは微動だにしない。呼吸をしているのかどうかも分からない。一ミリも動かないのだ。
でも、なぜか視線を感じる。もしかしたらフードの人は私を見ているのかもしれない。被害妄想だろうか。

ロムはぐるりと私たちを見渡して、ライアーに視線を戻す。

「本当に赤い髪と目なんだーへー染めたの?」

ロムの表情は鋭くて固くて冷たい。少年といっても納得できるほどだ。それなのに、言葉はフラフラしているような感じがする。
私はそれにさっきから違和感を覚えていた。
なんか、どっかで、こんな感じをした気がするんだけど。

「違う。地毛だ」

そこを聞かれるのはなんでか嫌いなライアーはロムから顔を逸らす。いじけたように下の景色に向いた。
その様子を見て、ジャルドが軽く笑っている。カンコは私と同じように左の方を見ていた。
私と同じように、違和感を感じているのだろうか。
ヒダリが人形のように動かないことに。

「……派手」

けなしているのか褒めているのか分からない言葉を吐きながら、ロムは自分の髪を指で撫でた。私はそこで、気が付いた。

そうだ。少しだけ、似てるんだ。
あの、クイーン・ノーベルの城で会った、雷暝っていう人に。


〜つづく〜


二十八話目です。
終わりが見えているとどうしても進むのが怖くなりますね。
とかこれ私の名言なのでよろしくです。