複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.195 )
- 日時: 2012/10/21 11:07
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
29・王様のような隊長。
「どれくらいだ」
「はい?」
一線で良い。一振りで良い。腕を振るだけで良い。
それだけで毎晩手入れをしている刃は皮膚を切り、筋肉を分け入り、骨を両断し、筋肉を切り、そして再び皮膚を突き破る。
足を踏み出すこともない。自分より低い位置にあるそれを吹き飛ばすのは、容易である。
息を呑む音が聞こえ、悲鳴を上げる奴もいる。うるさいので声を上げた奴は、同じようにしてやった。首から上の人間の部位がゴロゴロと土を汚していく。
私は残った人間をぐるりと見渡して、ため息を吐いた。口角を上げて見せれば、眼下に居る奴らの背筋が張るのが見て取れる。
「だから、どれくらいだ」
今度は誰も口を開かない。刀を傾けて、光を反射させて怯えさせる。
私は仕方なく再び同じような質問を口に出した。
刀で地面を抉ってから、刀を持ち上げて肩に乗せる。
空が綺麗だ。いつも銃声だの人の罵声を聞いていると、こんなにも風の音が心地良い。空が綺麗だな。何時だって天気は人の心を癒すものだ。
「どれくらい死んだ?」
私は空を見上げながら、空気を吸い込む。
落ち付く落ち着く。良いねぇ、私の心も快晴だ。
最近は状況が動いていない。別に早く片付けなければいけないという問題というわけではないし、急いだって失敗の可能性が増えるだけなので、ゆっくり動く。私はせかされるのは嫌いだ。
もっと自分のペースで動きたいから。
急いで資料をかき集める部下たち。
彼らは私に従う駒だ。私の思い通りに動いてもらわなくちゃ困る。私といつも動いている奴らじゃなくて、違う軍隊から派遣されている奴らも居るけれど、大体は私のペースについてくれなくて私の機嫌を損ねて首を撥ねられた。
私の支配力が、彼らの命を握っている。私をイライラさせない方が良い。私の言葉に正しく素早く働いて欲しい。使えない駒なんて、誰も欲しがらない。
「60くらいです」
最近私たちも相手も全く動いていないのにこれだけの人数というわけか。つまり、私はそれだけ殺してしまったわけだ。
私にとって部下は使い捨てる道具だ。
それを承知で私の軍隊に入る奴。そいつらを私は愛している。私と同じ志を持つ者。私たちは同志だ。
だけど、私には逆らってはいけない。それが分からないバカだけが、死んでいく。私は躊躇うことを知らない。
私は何時だって穢れる覚悟がある。
「足りないなぁ、ちょっとなぁ」
もっといっぱい欲しいな。私に向かって跪く人間は、もっと多い方が良い。もっと多く。
立ち上がるものは、多い方が良い。私と一緒に、世界を変えるものは、もっと多い方が。
と言っても、私は嫌われているし、問題行動を起こし続けて来たから、これ以上応援をよこしてくれることは無いだろう。
私はでも、この団の中での支配をやめるつもりは無い。
殺されたくないなら、自分の首筋に迫る私の刃を止めれば良い話だ。それくらい、強くなってみろ。私をこの隊長という地位から落としてみろ。
私は私が正しいと信じているから、私の信じた道を行く。
私は私が信じた行動をとっているだけだ。ただ、それだけ。だから私は恐れない。
「その辺でさー、暇そうな人とか連れてきてよ」
私は、正義だ。
〜つづく〜
二十九話目です。
彼女なんですけど、分かりますか。