複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.196 )
- 日時: 2012/10/21 16:06
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
30・警戒のような軽快。
「俺になんか用なのか」
ロムって人は、雷暝に似ている。雷暝はもっと怖い感じがしたけれど、でも、似ている。外側は似ていない。でも、中。中の中。中の中。一番奥の骨は、雷暝に似ているんだ。
私はそこでなんだかこの人が良い人じゃないような気がしてならなかった。まだであって数分の人。決めるのはまだ早すぎる。でも、そう思うのは仕方がないと思う。
雷暝は、怖かった。実際に、あの人の怖さを感じ取った私にとって、ロムは信頼できない人間だった。
しかし、なんだか妙だ。癖なのか、ロムはさっきから自分のズボンのポケット辺りを指で叩いて居る。そのリズムはバラバラで一定では無い。トーンと叩いたり、短くに連続で叩いたり。いったい、何をしているのだろうか。
この中に、このロムのくせに気が付いている人はいるだろうか。私の他に、ロムが雷暝と似ているって感じる人は、居ないのだろうか。同士が欲しい。賛同してくれる人間が欲しい。私は、誰かに頼らなきゃ生きていけないのだろうか。
まさか、そんなんじゃない。ただ、自分の考えていることは『普通』なのかどうか、それが気になるだけだ。
「そうですねー。特に無いんですけどー、あ、サインとか貰えちゃったり?」
「サイン?」
あからさまにライアーが嫌そうな顔をする。
ロムはふざけているのか、分からない。でも、本当に心底ライアーのサインが欲しいわけじゃなさそうだ。
指は止まっていない。忙しそうに歪なリズムを刻み続けている。
私はとりあえず、他の人はどうとしても、それが気になる。おかしいと思う。だから、じっと指を目で追って居る。覚えきれるわけじゃない。
ヒダリは相変わらず虚空を見つめて突っ立っている。まるでロムはヒダリが見えていないかのように、気を配って居ない。
もしかしたら、ヒダリはクスリにやられているのかもしれない。クスリを使った人間をよく知るわけじゃ無いけれど、とりあえず抜け殻のようにはなるだろう。クスリとなると、お姉さんに助けて貰ったあの日を思い出す。
お姉さん、元気かな。最近顔を見ていないけど。
「そうそう。あなたが死んだら、結構な価値になるかもしれないし」
ロムは目を細めて笑う。そこで初めて、ジャルドが半歩身を引いた。何のためにだろう。ジャルドはまさか、何か感じているのだろうか。ジャルドに何か声を掛けたほうが良いだろうか。
でも、私ごときが考えることだし、ジャルドにとっては取るに足らないことだろう。
だから、私は口を閉ざした。
「俺は死なない」
「死なない人間はどこにも居ないわ」
ちょっとムッとした声でライアーが言うと、すぐさまロムが厳しい声を出す。
彼女は何か、怒っているようで、怒っていない。
彼女は、やっぱり雷暝に少し似ている。
雷暝といい、ロムといい、なんでこんな複雑な表情を作ることができるんだ。私の表情は、そんなに発達していない。私の顔は、悲しみをそんなにうまく隠すことはできない。
羨ましいわけ、無いけど。
〜つづく〜
三十話目です。
やったー三十だー。