複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.199 )
日時: 2012/10/22 22:43
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



33・言い訳のような後悔。


助けられなかった。
雲の中に落ちて行く赤女は、笑っていた。俺を、心配させないためなのか。俺は、助けられなかった。
体の力が抜ける。足が震えている。鼻で呼吸ができない。俺が、殺した。俺が、もっと警戒をしていれば。もっと、ロムの言葉に丁寧に答えていれば。俺のせいだ。どうしよう。赤女が。赤女が。
汗が止まらない。ヒダリは攻撃をしてこない。もう、駄目だ。なんで攻撃してこないんだ。
どうして。攻撃してくれよ。もうこんな余計な事を考える暇を与えさせないでくれよ。守れなかったんだ、俺は。また、守れなかった。凪の次は、赤女。
俺は、一人だった。まとめて、誰かと一緒に戦うことなんか、無かった。俺は、俺は、駄目だ。弱い、弱すぎる。俺は、誰も守ることができなかった。怖い。
勢いよく座り込んだせいか、ひざが痛い。痛い、痛いんだよ。奥底が痛い。ギシギシする。
ジャルドは、下を見ている。俺とは違う。呼吸も落ち着いている。でも、違うことはある。瞬きをしていない。

カンコも、落ちた。赤女と一緒に。

「よしっ、じゃあ、続きを行こうか」

ロムの声がする。
首を回す。ロムの方を向く。
ヒダリは、ロムの隣にぴったりと張り付いていた。ロムが、魔術を唱えたんだ。女だからって油断をしていた。俺のミスだ。もう、止めてくれ。
もう、俺は十分だから。なんでもするから、今はとりあえず、泣かせてくれ。
立ち上がろう。座り込んでいても仕方ない。ジャルドは、まだ動かない。声も出さない。
ロムが手を払った、その時だった。
電子音が鳴って、ロムが舌打ちをした。ズボンのポケットから携帯電話を取り出して、ボタンを押して耳に当てる。誰かから着信が来たらしい。

俺は柵に手をやって、よろよろと立ち上がる。そして、ジャルドに近寄った。

「ジャルド、」

「そう、で? うん。あー分かった」

ジャルドに反応は無い。ヒダリは相変わらずこっちを見ているけれど、ロムは電話に夢中だ。
俺は、ジャルドの耳にそっと耳打ちをした。ヒダリの視線は痛いが、仕方がない。
ジャルドに反応がないので、とりあえず頬を抓る。初めて、ジャルドが瞬きをした。
俺はもう一度確認として耳打ちをした。

「ヒダリの意識を持ってけ」

ジャルドの目は完全に死んでいる。これは賭けと言っても良い。
俺は頼んだぞ、と呟く。

ジャルドが、柵から離れる。そして、片手にしっかりと握っていた刀を構えて、ヒダリに突っ込んでいく。
よし、これで良い。
ヒダリは一瞬で反応をして、刀から離れようとして身を引く。やっぱり、ロムから離れようと無意識にしているようだ。
ロムに被害が行かないように。
俺は足に力を入れて、走り出す。そして、ロムの足に足払いを掛けた。いきなりの事で、ロムは言葉を失っている様子だ。
俺は歯を食いしばった。
さっきの赤女の顔を思い出す。俺、相当根に持っているようだ。俺はバランスを崩したロムを抱き上げる。
赤女よりも小柄なようだ。

「ちょっ、え、バカ、っ、ソウガ助けて!」

俺はためらいもせず、ロムが開けた柵の隙間からロムを放り投げた。
バランスを崩しかけた俺を、ジャルドが急いで支えに来てくれた。

俺の行動に初めてヒダリが少しだけ口を開いた。開いただけで、声は出さない。
ヒダリが走って来たので体に力を入れたが、ヒダリは俺とジャルドにも目もくれず、ロムを追いかけるように雲に飛び込んでいった。
俺は再び、床に倒れこむように座る。

俺は、ヒダリのようなことはできなかった。手を伸ばしただけだ。ただそれだけで。俺は。
ジャルドの手が、肩に置かれる。
疲れた。ジャルドもきっと疲れている。

あの二人が何者なのかどうか、全く分からない。なんで、ロムは最後、ヒダリではなくソウガという人物に助けを求めたのだろう。
多分ソウガは、電話の相手だろう。

「ライアー、カンコは、生きてるよな?」

俺はジャルドの震える声に、返す言葉を見つけ出すことができなかった。


〜つづく〜


三十三話目です。
さてと、あれですな。