複雑・ファジー小説
- Re: 赤。【題名を変更するかもです】 ( No.2 )
- 日時: 2012/05/09 20:36
- 名前: 揶揄菟唖 (ID: LQdao1mG)
2・赤、死を感じる。
息が、止まるかと思った。
いや、実際止まったのだろう。
私の背後にいたのは、大型のビースト。
ギガントとよばれている。
白い犬のようだが、前足の付け根には緑の鱗がびっしりとはえている。
眼球は灰色一色で何処を見ているのかわからない。
口はだらしなく開き、べとべととした涎が草の上に落ちていく。
その口からのぞいているのは鋭い犬歯。
目が合った。
と、おもったら、私の身体はもうふっとんでいた。
左の腕から背中にかけてひっかかれたようだ。
ジャージが引き裂かれて、その赤とは違う濃い赤がジャージを侵蝕している。
私の身体と一緒に両手で抱えていた薬草も地面に散らばった。
一回転して木の幹にぶつかって止まる。
頭がくらくらする。
こんなことなら、もっとちゃんと装備を整えておいておくべきだった。
ジャージの下に硬い物を着ておけばよかった。
そんなこと考えたって、後の祭りなんだけど。
それより、だ。
そんなに森の奥には来ていないはず。
なのになんでこんなところにギガントが……?
わざとなのかはわからないが、ギガントはゆっくりとした歩調で私に向かってきている。
頭は幹にあたたった時の反動でガンガンするが、不思議と引き裂かれた腕と背中の傷は痛まなかった。
1歩。
また近づいてきている。
どうしよう。
怖い。
今までビーストと出会わなかったわけじゃない。
小柄なビースト、ドワーフとしか会った事がないんだ。
そいつにも勝てない私は逃げて、逃げまくって、この命をつないできた。
だけど、格が違う。
いつものように逃げたなら後ろからパクッだ。
どうしよう。
怖い。
その気持ちはどんどん強くなっていく。
ふと、右手が右の腰のナイフの柄を握った。
小柄だけど、依頼の後は必ず手入れはしている。
切れ味はいい。
でもこのナイフは採取用にしか使っていない。
どうする。
きっと考えたところで答えはひとつしか用意されていない。
左手も、ナイフを握る。
汗ばんでいるけど、大丈夫。握れる。
運よく、目につきたてることができれば。
息を吐き出す。
標的の目を睨みつける。
来る。
ギガントの足が動くと同時に、私はナイフを引き抜いた。
だがそのナイフは空を掻いた。
ギガントの頭部が、吹っ飛んだからだ。
「…………」
何が、おこった?
頭を失くしたギガントの体が横に倒れてまるで大木が倒れたかのような音が響く。
そして、私の目の前には右手に武器を握った人が立っている。
「…………」
その人はまるでさっきのおっちゃんのように顔を歪めて不機嫌さをあらわにしている。
「……バカか、お前は」
バカ?
私が?
初対面の人に言われる筋合いはないなどといった文句も言えないほどに私はほっとしていた。
身体中の力が抜け、その場にへたり込む。
助かった。
助かった。
生きてる。
「そんな格好で森に来る奴がいるか。丸腰同然だぞ」
助かったことを認識してくると、自分の息が荒いことに気付く。
私、どきどきしてた。
怖かった。
もう終わりかと思った。
「……ありがと、ございます」
荒い息の中で命の恩人にお礼を言う。
その人はどうやら男性のようだ。
女の人にもなれそうな整った顔立ちをしているが、声や言葉遣いからして、男性だと思う。
ようやく息が整ったので、ずっと思っていたことを口に出す。
「ハラダ・ファン・ゴ……」
そう。
ハラダ・ファン・ゴ。
彼の持っている武器のブランドだ。
「?」
彼はよく分かっていないようなので、彼の右手にあるそれを指差した。
「あぁ、これか」
彼はそれを持ち上げ、眉をひそめる。
「いいものだってすすめられたから買ったんだけど、なんかちょっと軽すぎるかな、捨てるか」
す、捨てるぅ!?
今の私は凄い間抜けな顔をしているだろう。
だって、ハラダ・ファン・ゴブランドの剣は超高級品でお金持ちしか買えないものだ。
コレクションしている人も多く、世界でも大人気のブランドとされている。
ハラダ・ファン・ゴは兵だった。
数々の戦場を生き延び、たくさんのビーストを倒した、とても強い人だったらしく歴史に残っている。
彼は戦場にいく前日に剣を製作することで有名だった。
さらに時々戦友に剣を贈ることもあり、彼と並ぶくらいに強く、有名だった兵のために作られた剣は今でも存在し、世界のどこかのお金持ちが所有しているだろう。
血なまぐさい戦場を経験した彼が作る剣はデザイン性が高く、さらに使いやすいということで彼が戦死した後もハラダ・ファン・ゴブランドとして残っている。
ちなみにハラダ・ファン・ゴが最後に手がけた剣は想い人を満月を重ね作られた《月面》というものでハラダ・ファン・ゴが作ったにしては小ぶりで、シンプルらしい。
今、彼が持っているのはハラダ・ファン・ゴの生誕2000年を記念して製作されたもの。
ハラダ・ファン・ゴブランドを証明する刀身に彫られた《F》の文字。
剣というには細く、刀というには長いが強い人が使えばビーストをコレでもかというほど吹き飛ばすだろう。
金額は相当な物にちがいない。
喉から手が出るほど欲しい人もいるだろう。
それを、
捨てるぅ!?
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
立ち去ろうとする彼を私は呼び止める。
彼はめんどくさそうに振り返ると、私の格好に目を丸くした、と思う。
多分。
私はその場に土下座をしていた。
「なんならそれ、私に下さい!!」
初対面の、しかも命の恩人にこんなことを言うのは気がひけるが仕方ない。
アレを売れば一生あそぶ金が……いやいや、製作したハラダ・ファン・ゴブランドの人がかわいそうだ。
というか私もハラダ・ファン・ゴブランドに憧れている。
腰に挿している、ナイフも本物は到底買えないのでハラダ・ファン・ゴのレプリカだ。
くれないならくれないでがっかりするだけだが、くれるなら万々歳。
今度は別の意味でドキドキしている私に、彼がその答えを言う。
〜つづく〜
二話目です。
長くなっちゃいました、ごめんなさい。
これでだんだん短くなると思います。
ありがとうございました。
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