複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.203 )
- 日時: 2012/10/29 17:56
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
36・役立たずのようなおれ。
「あーあ、戦況は相変わらずか」
おれは部下に渡された資料を見ながら愚痴を零した。
ここ最近、おれたちもアイツ等も動いていない。おれたちはアイツ等がどう出るかどうかを見ているつもりだったが、こうして待つのももう飽きた。
おれとしては、早く戦いたい。大暴れしたい。こんななにもない日が何日も続いては、気が緩んでしまう。
「気を抜くな。いつ来るか分からないぞ」
それなのに、おれの隣で仁王立ちをして瞑想をしていた男は、いつだって気を引き締めている。おれと違って。
コイツ、飽きないのかな。こんな毎日毎日、たいして変化がない活動報告を読んで、時々ビーストを倒して。やっぱり、すごいんだよなぁ、コイツは。側にずっといると、分かってくる、コイツの凄さ。おれが単に未熟なだけなのかもしれない。でもそれを抜きにしても、コイツはすごいのだ。
「へいへい。分かってますよ、親方」
何と呼んだら良いか分からなかった。
名前で呼ぶと、なんだか親しいみたいでおれのプライドが許さなかった。師匠と言うのも、嫌だ。
おれは、コイツを信頼している。コイツから学んで来たことはすごく多い。
文字の書き方とか、読み方とか。普通の言葉づかいとか、武器の使い方とか。全部、全部コイツが居ないと分からないことだった。ビーストの皮の剥ぎ方、宝石の見抜き方、街で注意すべきこと。何度も間違えるおれに、コイツは根気良く教えてきた。
感謝をしている。でも、口に出したことは無い。おれは、自立している。そう感じていたい。おれだけはせめて、現実を受け入れなければいい。こんなの、ただの子供の駄々に見えるだろうけど。
それでもおれにとっては大切なことだった。
「おれ、そういえばまだ見てないんだよな。あっちのボス」
戦いが始まったって聞いて、コイツについてきた。おれは別に来なくても良いって言われたけど、でも楽しそうだからついてきた。
戦争は初めてだ。ただの抗争だけど、人間と人間が大人数同士でぶつかる。そんなのはおれは見たことない。だから、経験としてついてきた。死ななければ、後悔はしない。
コイツの凄いところは、コッチの戦士であるみんなをまとめている事だ。何百と居るコッチの戦力は、躊躇いもせずコイツの指示に従う。コイツに命を預けているんだ。これだけの人数の命を背負って、コイツは戦っているんだ。
すごいと思う。俺にはできないと思う。おれは、コイツみたいにはなれない。こんな立派な人間にはなれない。
いきなり現れて、こうしてコイツの隣で立っているおれのことをよく思わない人間は多いだろうな。
おれには、いつだって敵の方が多い。
おれは何だか嫌になって、空を見上げた。
そして、あるものを見つけた。
俺はその場から立ち去ろうとしていた男を呼び止めた。
空を指さす。
「親方ぁあ!! 空から女の子が!」
〜つづく〜
三十六話目です。
書く前から決まっていたシーンです。