複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.207 )
- 日時: 2012/10/28 22:26
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
40・子守唄のような体温。
「あ、まだ動かない方がいいぜ。待ってな、水色の髪の女なら、つれて来てやるから」
燕はそういって私を制止させた後、テントから出て行った。
ちらっと見えたけれど、燕の頭から垂れた二本の髪の束は、耳の上から出ているようだった。不思議な髪型だな。
私は寒さを憶えて、毛布を体に掛ける。言われた通りにしておこう。
さて、これからどうするから。ライアーが居ない限り、私は久しぶりに私で判断して考えなければならない。
燕が、敵か、味方か。燕の他にも、人間は近くにたくさんいるようだ。足音が忙しそうに動いている。私の他にも、カンコがいる。私たちを助けたのはもしかしたら、人買いに売るためかもしれない。私はともかくとしても、カンコは髪も目も綺麗だし、それなりの値段で売れるだろう。それが目的かもしれない。
人の行動には何か、裏がある。必ず疑うことを覚えよう。私は単純でバカで弱いから、すぐに人を信じてしまう。それがいけないことだ。もっと、自分を守れるようになろう。
その方法が、人を疑うことだなんて、嫌だな。そう思っていたら、強く慣れないのかな。もっと、優しく強くなれないものか。
甘えかもしれない。弱いから、こんなことを考えるのかもしれない。
ライアーは、私にその道を示してくれるかな。私が望む道を、教えてくれるかな。ライアーなら、知って居るかな。
雪羽って言って、手を伸ばしてくれた。私を助けようとしてくれた。私が死ぬことに、恐怖を感じてくれた。
それが、嬉しかった。
私が死んだらきっと、困るんだなって。
ジャルドも、カンコを心配して居るだろうな。そして、私を恨んで居るだろう。
あんなに愛していたんだ、カンコのことを。あんなに、大切にしていたんだ、カンコを。
それを、私が殺した。ジャルドはきっと、私を殺したいだろう。もしかしたら、ライアーに八つ当たりをしているかもしれない。そんなことにはなっていて欲しくない。
あんなに、仲が良さそうだったんだから。
そのためにも、ここから早く進まないと。私たちは生きているって、伝えないと。
怒られそうだな。ライアーに。心配させんなって。
それで、それで。
「雪羽」
燕にテントを捲って貰って入って来たのは、白いワンピースに誰かのコートを肩に掛けてもらってコーヒーカップを持っているカンコだった。
外は冷えるのだろう。コーヒーカップからは湯気が上っている。
それでカンコは指先を温めているようだ。カンコは私の近くまで来て、そしてペタンと腰を下ろす。
私はその髪を撫でてあげた。
まるで水のような、ひんやりとした温度、さらりとした感触。まるで髪じゃないみたいだ。
カンコの湖のような瞳が、私を映している。
「カンコちゃん、無事で良かった。ごめん、ごめんね」
我慢していたはずなのに、私はいつの間にか体を起こしてカンコを抱きしめていた。
〜つづく〜
四十話目です。
最長になるみたいです。