複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.208 )
日時: 2012/10/29 17:55
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



41・子供のような私。


カンコの腕が、私の背中に回って来る。私はその温度を感じて、思わず泣いてしまった。
一粒流れた涙は、止まらない。どんどん次が出て来る。苦しい。上手く息ができないから、仕方ないから、声を出して泣く。
情けない。燕はそんな私たちを、おどおどしながら見ていた。対応に困っているようだ。気にしないで良い。このまま放っておいて欲しい。
燕は、信用していない。それは前までカンコも一緒だった。ジャルドと一緒だったし、私を冷たい目で見るものだから。だから、怖かったけど、でももう大丈夫。
一緒に空を落ちた仲だ。一緒に奇跡的に生き残った仲だ。妙な親近感と、仲間意識が、私の中には生まれている。
カンコは、私の背中を撫でてくれる。私をなだめている。
本当は、逆のはずなのに。私が、カンコを慰めてあげなくちゃいけないのに。
私は、カンコの薄い肩におでこを乗せる。

「雪羽、そのままで聞いて」

不意に、泣きじゃくる私の耳に、カンコが語りかけてきた。私にしか聞こえないであろう、小さな声。
涙は止まらない。
返事をしたわけじゃないけど、カンコは言葉を続ける。

「周りは草原で、そこにテントを作っているらしい。戦争の途中みたい。ボスは多分、一番でかい筋肉質の大男。私を縛ろうともしなかった」

凄い、カンコ。凄いよカンコ。
こんな環境の中で、こんな小さな女の子は周りをよく観察している。
カンコは、見ただけで分かった敵の数と、装備を細かく伝えてくれる。
どうやら、戦争らしい戦争ではなく抗争のようなもので、グループとグループが争っているような感じらしい。人間が関係を持っていればよくある事だと、カンコは付け加える。
そうか。それなら、まだここを利用してもいいだろう。しばらくここで体力と状況を整理してから、ここを離れても遅くは無い。
使えるものは使おう。

私は涙を手の甲で拭いてカンコを離す。
そして、強く頷いた。
帰ろう。絶対に帰ろう。生き残って、帰ろう。また、私たちがいるべき場所に、帰ろう。大丈夫、大丈夫。私、考えることができている。ライアーに頼れないんだ。私は、カンコも守る。
今の私なら、自分よりカンコを優先できる。

「……あ、その、雪羽」

カンコの言葉から学んだろう、燕は私の名を頬を染めながら発する。
私はカンコの肩を掴んだまま、燕の方を見る。
私と目が合って、気まずそうに燕は頬を掻いた。

「腹、減っているだろ」

そういえば私は、ずっと何も口にしていないかもしれない。
凪のことでいっぱいいっぱいで、そして飛行船で気持ちの整理が付いたら食べようと思っていたのに、整理されるどころか、もっと気持ちと状況はぐちゃぐちゃになってしまったから。


〜つづく〜


四十一話目です。
まだまだ。