複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.209 )
日時: 2012/10/29 18:30
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



42・自由のような幻想。


「ってことだ、分かったか?」

目を覚ますと、木の器に入れた赤い液体を俺に差し出しながら、悲しそうなムーヴィがいきなり何かを話し始めた。
俺はそれの匂いを嗅いで、血だと言うことを確認する。その匂いは周りの空気にも溶け込んでいて、二人鎧で身を包んだ人が倒れていた。
それと同じ格好をした人たちは、俺をじろじろ見ている。
なんだろう、これ。ムーヴィが話したことは理解できた。でも、納得はできない。
なんで俺たちが、こんなことをしなくちゃいけないんだ。どうしてムーヴィは、コイツ等の言うことなんか、素直に聞いているんだ。俺の意見も聞いてくれなかったのは、なんで。なんで、ムーヴィは一人で決めちゃうの。
俺、守られたくないよ。俺、みんなと一緒に居たいから、だから、自分の居場所くらい、自分で守らせてよ。自分の道くらい、自分で決めたいよ。ムーヴィが作ってくれた道を、安全だと用意してくれた道を、歩きたくない。
変わりたいんだ。
俺は、アスタリスクの物じゃない。俺はもう、俺たちはもう、自由なんだ。
それなのに。まだ、アスタリスクに縛られているように、感じるのは、なんでなの。

「銀……?」

「分か、った」

心配そうに顔を見られて、思わず頷いてしまう。
こんなんじゃ駄目なのに。分かっているのに。
俺の返答にほっとしたのか、ムーヴィは器を俺の方に向ける。
なつかしい。アスタリスクに体をいじられて、俺たちはもう普通の食事はできない。だから仕方なく殺す。生きるために、殺す。みんながやっているのと同じ。人がビーストを殺すのと同じ。ただ、ビーストの立場が人間になっただけ。それだけで、大騒ぎしすぎだと思う。
でも、それも、この思考も、全部アスタリスクの思い通りだったなら、どうしよう。
アスタリスクに、まだ俺は縛られて居るのだろうか。もしそうなら、どうしたら本当に自由になれるのだろう。
自由ってなんだ。俺たちの探している、憧れてきた自由って、なんだ。

「アシュリーも、パルも、ちゃんとご飯、食べているかな」

食べていると良いな。こんなアスタリスクにいじられてしまった体だけど、大切にしないと。俺たちの体だから。
今はもうアスタリスクの物じゃないから。そう信じないと、いけない。おかしくなりそうだ。何かに気付きそうだ。
ムーヴィ、答えてくれよ。俺たち、自由になるためにはどうすればいいの。俺たちいつかきっと、忘れることができるよね。
アスタリスクのこととか。大嫌いな自分のこととか。

「……あぁ、当然だ」


〜つづく〜


四十二話目です。
銀久しぶり。