複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.211 )
日時: 2012/11/03 12:08
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



44・個性のようなコンプレックス。


「つまり、俺たちはここで戦えば良いわけだ」

銀に一通り説明をした後、くるくると跳ねた金髪の女を振り返る。
銀は多分、この状況に納得はしていないだろう。そんな顔をしていたから。でも、仕方がないと思っているのだと思う。助かるけど、申し訳ない。
金髪女は一番強い。他の兵士は役立たずとみても良い。ただの数。そうなると、厄介なのは金髪女ただ一人。脅威はそれだけ。でもこれが、しんどいと思う。コイツはきっと、強い。それも、俺たち二人じゃ少しつらいくらいに。本当に、こんなに疲れていなけりゃあ、簡単なはずだ。銀が体力が戻るまでは、逃げられないだろう。だったら、早くコイツ等を満足させた方がいいだろう。
俺の判断は、間違っていないかな。ここで銀に聞いては、駄目だ。銀を不安にさせちゃいけない。俺が銀と居るのに。銀は、俺にしか頼れないのに。俺がしっかりしていないと、いけないのに。だから、俺が頑張らないと。アシュリーにもパルにも、俺が正しいかどうか、聞けない。
俺、情けないな。何時だって、誰かに頼ってばかりだ。

「そうそう。最近アッチもこっちも動いてないから。これ以上長引かせるのもねぇ。食料とかの事情もあるし」

金髪女は、そうして自分の指で髪を巻き始める。少しくすんでいて、あまり綺麗じゃない金。銀とは大違いだ。
銀は最近、疲れている。ビーストの血ばかりで、人の血を飲んでいなかったのもそうだけど、アスタリスクの場所に慣れているからこそ、ここの自然の空間に慣れることができないのだ。だから、体調を崩してしまった。アシュリーとパルに連絡ができない状況ことも、精神的にきているみたいで元気がない。痛々しくて、正直見てられない。
俺たちをこんな目に合わせた赤髪を、許すことなんて絶対に、できない。

「私、ダルトファルト騎士団三番隊隊長の、レドモン」

レドモンはそういって、手を差し出して来た。俺はそれを見つめるだけで、取らない。仲良くするつもりなんて無いからだ。大体、俺たちは人の気持ちとか分からない。分かろうとも思わない。だって俺たちの苦しみはコイツ等には分からないから。俺たちはどうあがいても、別の人間だ。
レドモンは肩をすくめて、手を県の鞘に置いた。抜くつもりではないと思う。そこに置くのは隊長としての癖だろう。すぐ抜けるように、すぐ戦えるように、気を抜かないように。
レドモンは、俺たちを信用していないみたいだ。それどころか、ここに居る部下たちも、心からは信用していないだろう。
そんな、人を常に疑うような目をしている。
人を人の心で見る目。だからこそ、俺のこの髪と目を見ても、何も反応しなかった。見た目で人を判断していない証拠。
俺でさえ、俺のこの見た目には、吐き気を催したというのに。

「俺は、ムーヴィだ」

「俺は、達羅銀孤。銀って呼んで」

後ろで、器の中の鮮血を飲んでいた銀が俺に続く。
レドモンは、俺たちが血を欲していると知ると、これを飲むと良いなんて言って、近くの部下を躊躇いなく殺した。潔さに、俺は驚いて、それを買ってこの状況になることを決意した。
コイツは強い。肉体的にも、精神的にも。

「あー、私のこと、レドモンって呼ばないでね。レドでもレモンでもいいから」

自分の名前を呼ぶたびに、レドモンは嫌そうな顔をする。
銀の、血を飲み干す声が聞こえて振り返ると、すっかり腹は満足したみたいで目をキラキラさせて唇を舐めた。
そういえば、こんな状況でもこんなに人に囲まれるのは初めてかもしれない。こんなに、俺たちが人と会話をしているなんて。アスタリスクの所有物だった頃では、考えられない。

「えー、なんでだ?」

銀はレドモンという名前が珍しいのか、呼びたくてうずうずしているようだけど、、それはきっと叶わない。
レドモンにとって自分の名前は、コンプレックスなのだ。俺には分かる。

「その名前は私だけれど、私はその名前ではないからよ」

なんて意味の分からないことを言うレドモンは、何かを思い出すかのように、目を伏せた。


〜つづく〜


四十四話目です。
お腹空くと気持ち悪くなってくるんですよね。