複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.213 )
- 日時: 2012/11/04 11:44
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
46・慎重のような大胆。
俺は船員が不思議そうな顔をするのも気にせずに、誰もいない部屋から鞄を持ち出した。もしかしたら、生きているかもしれないから。だから、置いてきたりなんかしない。
まだ、頭の中には霧がかかって居るかのようにもやもやしているし、あれが夢なんじゃないかって思えて来る。ジャルドも同じみたいで、現実なのか確かめるかのように、折れた柵をずっと撫でていた。
俺も俺で、船内をうろうろしてみたりした。実は夢で、ひょっこり赤女が向こうの廊下から顔を出すんじゃないかって、思って。
こんなんじゃ駄目だって、分かっている。これじゃあ、凪の時と同じだ。死体がぐちゃぐちゃなら、いくらクイーン・ノーベルでも生き返らせることはできない。
つまり、赤女は、もう。
ギュッと、鞄の紐を握る手に力を込める。
全部俺の荷物は黒で統一しているのに、赤女のリュックサックを持っていることでそれが浮いているように見える。
赤女の荷物は少なかった。女ならもっといろんなものを持つべきなんだろうけど、赤女は違う。化粧品とか、そういうものを一切使っているのを見たことがない。
しかし、赤女の肌は黒い目と黒い髪を引き立たせるかのような白で、結構綺麗だ。逆に、使わない方が良いのかもしれない。そう思ってしまうほど。
気が付けば赤女のことを考えている俺に、うんざりする。でも、まだ信じないから。まだ、駄目だって分かっているけれど、拒むから。
赤女の死体を見るまでは、まだ。
「ライアー、どうする?」
ジャルドの目はまだ虚ろだ。
普段なら自分で判断できる人間なのに、今はそうじゃない。カンコが居なくなったからなのか、それとも、カンコが居ないからなのか。それは分からない。
カンコと一緒じゃないジャルドを見るのは、これが初めてだからだ。
カンコは、ジャルドの隣に何時も立っていた。それは、ジャルドが隣を許したからであり、信用しているからであり、そして必要だからだ。
俺にとって、赤女はそんな存在なのだろうか。違う、絶対に違う。俺に必要なのは、赤女が持っている黒という色であり、赤女なわけじゃない。
「……ゴールデンアームスの件を解決しに行く」
一瞬考えた末に応えると、ジャルドは俺の方を睨みつけるかのように見た。
仕方がない。クオに頼まれたんだから。俺はクオの期待を裏切ったりなんか出来ない。
赤女は俺のとって重要な存在じゃない。だから良いんだ、これで。赤女を探すのは、そのあとだ。それで良い。
赤女の扱いなんか、これで。
「……ライアー……?」
「なんだよ。ジャルドはどうする? 俺と来るか?」
ジャルドの拳に、力が入ったような気がした。確かに怒っているよな。大切なカンコが、知らない女と道ずれで落された。
ジャルドは答えない。呆れているのだろう。
俺はいじいじしてばかりだよ。
「……赤女たちが落ちたのは、多分、ゴールデンアームスたちが争っている場所らへんだと思うけど」
〜つづく〜
四十六話目です。
なんだか喪失感が今すごいです。