複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.214 )
日時: 2012/11/04 15:07
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



47・親子のような二人。


「な、おい」

燕はご飯を持ってくると言ったのに、手ぶらで戻ってきた。幕を片手で軽く捲り、半身を入れて手招きをしてくる。
どうやら急いでいるようだ。
私はカップのことは忘れて、カンコの手を取って立ち上がった。カンコは全然抵抗はしない。私たちは素直に燕に従ってテントの外に出た。
カンコは初めてじゃないけど、私は初めて。カンコの言った通り、テントの外は草原だった。そして、私たちが居たテントと同じような物が周りに何個もある。距離を置いていない。その方が効率が良いということだろう。
争っているのだから、辺りの空気はピリピリとしている。みんな気を引き締めているんだ。でも、なんでだろう。意外と、緩んでいる感じがするかもしれない。もっとしっかりしている方が良いのに。
燕も、なんだか緩かったし。
私たちがもしも、敵の仲間だったらどうするんだろう。そんなことは全く考えていないようだったし。

燕が私たちを連れてきたのは、上半身裸の男のところだった。
身長は大きい。今まで見てきた人の中で一番かもしれない。そして、威圧感がすごい。髭に囲まれた口はきっちりと締まって居て、厳しそうな感じがする。鋭い眼光は睨むように私に向けられている。
カンコは動じていない。
太い指には宝石の指輪がはめられている。ネックレス、ズボンの装飾。
お金持ちのようだ。

「親方、連れてきたぜ」

燕はそういうと、親方の横につく。
燕と男に身長差はすごくて、まるで親子のようだ。もしかして、親方は二メートルはあるんじゃ無いだろうか。
もしかして、ああ、そうか。身長だけじゃない。纏って居る空気が重すぎて、大きく見えるんだ。自然に、怯えさせられちゃってたんだ。
しっかりしないと。
私はそっと、カンコの手を握る手に力を込める。カンコも受け入れてくれる。

「……黄金の両腕だ」

ゴールデンアームス。ライアーが言っていた、人だ。この人が起こしてる抗争を止めるんだって、言っていた。
そういうことだ。そういうことだ。凄い偶然だよ。凄いな、本当に。
つまり、ここで待っていれば、ライアーが来る。ジャルドもライアーについて来てくれていれば、これで万事解決ってわけだ。良かった。
でも、ライアーが私のことを探していたら。そうしたら、ここには来ないのかもしれない。
ならないよな。あれは、違う。落ちるところに手を伸ばしてくれたのは、助けたかったわけじゃない。ただ、人間として、ただ反射的に手を伸ばしただけかもしれない。
そうだよな。
だからきっとライアーはここに来る。絶対。

私はキッと、負けないようにゴールデンアームスを見上げる。
ゴールデンアームスの眉がピクリと動いたけど、気にしない。
私がこんな顔をするとは、思わなかったのだろう。

「雪羽です」

「カンコ」

とりあえず、名乗ってはおく。
燕がなんだか横でそわそわしている。なんだろう。私の名前はさっき聞いたでしょ。
組んでいた腕をほどいて、私の頭に大きな手を押し付けるゴールデンアームス。
私は指の間からゴールデンアームスを見上げていた。指輪がごつごつしていて痛い。髪が絡みそうだ。
そして、しばらくして離す。
なんだ。何がしたかったんだ。

私は意を決して、声を放つ。
ゴールデンアームスの威圧に負けないように。

「私は、貴方たちの抗争を止めに来ました」


〜つづく〜


四十七話目です。
まだまだまだ。