複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.217 )
日時: 2012/11/10 14:42
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



50・恐怖のような強がり。


「っ、なにが言いたいんだよ」

燕が、牙をむくようにして声を張り上げる。
落ち着こうとしているのか、静かな声だった。燕はどうやら、怒っているようだ。
でも、私にはなんで起こるのか分からない。だって、私たちの事情なんて、燕は知らないのだから。そんな燕になんだかんだ言われたって、仕方がないだろう。
私はでも、燕に私たちのことを理解して欲しいとも思わない。ライアーが来るまで、私にできることをしたい。ただそれだけだ。
少しでも、事情を理解しておこう。この人たちがしている抗争の原因。それを理解しよう。そうしてから、この問題を解決していく。
私にそれができるかどうか。それは知らないし、分からない。できないかもしれない。でも、やるしかない。私が決めた事なのだ。やらなくてはきっと後悔をする。後悔はしたくない。後悔だけは。

後悔という言葉とともに、思い出される光景がある。
冷たい空気と、人の目。感情の亡くなった体。
私は今も、友人のことを後悔しているのか。いや、後悔している。
私は、期待に応えることができなかった。この後悔はきっと、私を死ぬまで追い続けるだろう。癒されることは無い。
前を向かなきゃいけない。
そう思い始めたのは、本当につい最近のことだ。
小さな事で立ち止まっている私は、振り返りたくて溜まらない。あの日を振り返って、そして自分が成長をしているかどうか見てみたい。自分が進んできた道を見て、安心したい。
でも、振り返ったところで、待っているのは絶望と自己嫌悪。進んでなんかいないんだ。
足踏みをして、景色を無心で見て、そうして、進んだ気になっているだけ。それに気が付いてしまうだけ。それを分かっているのに、私は振り返った。
今は違う。今は違うと信じたい。
私を待っている人が居る。こっちに向って、手を伸ばしている人が居る。そんな人が、私を見ている。もう私だけの道じゃない。この道に、同じように立って、前方で私を助けようとして居る人ができた。
昔の私と、今の私。背負っているものが違う。周りの景色も、温度も変わった。
私は今、生きている。
自分だけのためじゃない。きっと、そうだ。

「燕、黙れ」

感情を押し殺すような声だ。低くて、聞き取りにくいくらい。
私はそれでも怯まない。
この気持ちのまま、解き放たないと。私が恐怖を感じたら、今までと一緒だから。それは避けないといけない。
こうやって自分を高めないと、やってられないのだ。私は、それだけ弱い。
勢いに乗って、言ってしまえ。
そして、私はただの女じゃないってことを、見せつけないといけない。

「ほぉ、なんでだ?」

燕は相変わらず私への警戒を解いて無い。
それは分かる。でも、分からないのはこの男だ。この男の纏う雰囲気が、全く分からない。
何を考えているのか、どんな感情を抱いているのか、分からないのだ。燕のように分かり易かったら良かったのに。
私は燕には目を向けない。
違う。
大男の目から、目を離すことができない。足が震えそうだ。こんな、初対面の人に喧嘩を売るようなマネをするなんて。
私、今非常識な人間だよな。

「私たちは、レッドライアーの知り合いというか、お供です」

まだ私の立場を表す言葉は見つかって居ない。でも、本当のことを言う必要もないから、適当に嘘をついた。これを信じるも信じないも、私には関係のないことだ。大体、信じているかそうでないかなんて、私には分からない。それを知る術もない。
私の返答が意外だったのか、アームスは首を傾げた。
筋肉が首にもついているのか、その首は太い。傾けるとゴキゴキと音が鳴った。
凄い。それだけで威嚇されたように感じる。

「ライアー? アイツがお供をつけるなんて思わないが」

ライアーの名前が出た途端に、アームスは不機嫌そうにする。もしかして、仲が悪いのだろうか。ライアーはそんな素振り見せていたっけかな。
確かに。そう思った。ライアーは最初、確かに近寄りがたい雰囲気をしていたし、今でも人とはあんまり関わっていない。
でも、どうだろう。ライアーは確かにそれを望んでいるのだろうか。人が嫌いなわけじゃないような気がする。実際、私にも凪にもジャルドにもカンコにも、普通の人のような顔ができるし。
ライアーに聞いたことがない。
結構長い時間、一緒に居るのに。私は、ライアーのことを何も知らない。私のことも、ライアーは全く知らない。
私は、ライアーのことを知りたいとは思ったことは無い。それなのに、こう他人に言われると、なんだか知りたくなっていく。
ライアーは、私に興味はないだろう。

「確かに、そうですね。信じなくても構わないです。でも、だからと言って私は私の意見を曲げません」

本当は、こんなに強い言葉を履けるような立場じゃない。でも、こうしないと駄目のような気がした。

形だけでも、言葉だけでも、強くありたい。


〜つづく〜


五十話目です。
初めての五十話目です。
長くなりました。