複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.218 )
- 日時: 2012/11/11 15:46
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
51・絶望のような冷静。
ダルトファルトは、海に面しているから貿易が盛んだった。街は豊かで、海の匂いのする爽やかな街。
と、表向きではなっている。だが、豊かという言葉には必ず影がある。ダルトファルトも例外ではなく、その実態はどろどろのグズグズに腐った脳みそのように汚い。
薬が廻っているのだ。それは都会にはつきものとなった違法なもの。
もちろん俺はそれに手を出したことは無い。薬売りに声を掛けられたことなら何度かあるが、それは華麗に無視して来た。
興味がない。薬なんかで気持ち良くなったところで、周りが変わる訳でもない。自分を変えることは出来るだろうが、それは逃げているのと同じであり、救済ではない。
それを理解できない人間が、薬に手を出して死んでいく。副作用がすごいらしい。どんな副作用なのかは知らない。だが、少しは予想できた。
そんな物に金を出すなんて、バカだ。しかも、金のない人間に限って。
ダルトファルトは、貿易が盛んだ。さっき言ったことだが、繰り返す。
つまり、ここダルトファルトが麻薬を世界にばら撒いて、そして大量に呑み込んでいると思って良いだろう。
「騎士団も使っているらしいぜ」
ジャルドの顔色が冴えないから、俺はそんなくだらない話題に行こうと思った。
飛行船が着いたのは、ダルトファルトの海岸だった。海岸といっても砂浜ではなく、崖になっているところだ。
そこからしばらく歩いたり、馬車を利用したりして俺たちは今、街を出ようとしている。
ジャルドはちらりと俺に視線を向けて、そしてまた足元を見る。
暗くなってしまったジャルド。ジャルドは何時も自信満々で、厭味ったらしいのに。こうも静かだと、逆に落ち着かない。
ジャルドは俺についてくることにしたらしい。ここで嘆いていてもカンコは帰ってこないと分かっているようだ。
そういうところは冷静なジャルド。
「クスリだよ。騎士団が使っているなんて、救えないねぇよな」
本来街の治安を守る立場にある騎士団が、取り締まるはずの麻薬使用者に成り下がっているのだ。
久しぶりに長く喋る俺。
それでもジャルドは顔を上げない。俺はとうとう困ってしまった。
赤女もそうだったけど、どうにも俺は落ち込んでいる人間にどうやって接してていいか分かって居ないみたいだ。当然だろうけど。
だって、ずっと幼いころ一緒に居たクオとユコトは、決して落ち込んだりなんかしていなかったから。幼いころは、クオとユコトにしか会っていなかった。
だから、人付き合いの仕方が分からないんだ。こんな年になっても。
今からでも遅くないだろうか。そうしたら、クオに教えてもらいに行こう。
人に優しくなれる方法とか。似合わないって笑われそうだけど、仕方がない。
「……ライアー、なんでお前そんなに冷静なんだよ」
「は……?」
ジャルドの涙で濡れたような声に、俺の足が止まる。
ジャルドが歩くのを止めないので、急いで追いかけて歩調を合わせた。ジャルドの足取りは、落ち込んでいるとは思いほどにきびきびとして居る。
カンコに早く会いたいのだろう。ジャルドは、自分に正直なんだ。
そうだ、そうだよ。
俺は。
俺は、落ち込んでいる俺への対応も、分からないんだ。
〜つづく〜
五十一話目です。
まだ終わりは見えていません。