複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.219 )
日時: 2012/11/12 16:53
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



52・過保護のような束縛。


認めたくない。俺は何時までこの言葉を吐くつもりなんだろう。
考えた事もなかった。自分にこれだけの醜い感情があって、欲望があって。それでこんなにも自分が大切だなんて、思ったこともなかった。こんな自分は嫌いだ。変えられない自分も。何もかも嫌いで、嫌いで。世界で一番嫌いな人間だ。自分なのに、思い通りにならない。一番我儘で、傲慢で。嫌になる。
それでも俺から逃げない人間が居る。赤女とか、ジャルドとか、クオとか。ユコトはまあ、クオのためだからとかなんとか言っているけど。
俺はたくさんの人の中に居る。
俺は、一人じゃない。これだけ心強いことがあるのか。
俺はきっと、赤女が心配なんだ。心配、だってよ。死んでるに決まって居る。
アイツは死んだ。死んだんだ。それなのに。それだけの言葉だけで切り捨てることができない。それ以上の気持ちが溢れそうだ。
いつまで経っても、何を考えていても、あの時の、飛行船から落ちる瞬間に見せた赤女の表情が、頭から離れてくれない。あのときの棘が、心臓に刺さったままで、痛い。

「ジャルド、急ぐぞ」

いろんな感情が混ざって混ざって。それが体のどこからか溢れ出しそうだから、それを食い止めるためにも前に進む。
早く、早く。この棘を抜かないと。じゃないと、痛みが引いてくれない。赤女を忘れることができない。
俺は、どうしたいのか。
赤女が死んで、一人になる。ジャルドはジャルドでやることがあるのだから。だから、これからは一人。人の熱を知ってしまった俺は、それに耐えられるかどうか。
それも考えていると、やっぱり呼吸が乱れる。
赤女のことを、忘れないと。
ジャルドは走り出した俺についてきてくれる。疑問も不満も漏らさない。
ジャルドはまだ、信じているのだろうか。
カンコが無事だって、信じているのだろうか。


 + + + +


きらきらと光るアスタリスクを眺めていると、頭にちらりと映像が流れ込んだ。
その映像に、思わず腰を浮かせそうになる。でも、座った。
アスタリスクは不思議そうに、光の点滅のスピードを上げる。

世界最強と謳われた人工知能のアスタリスク。それもそろそろ限界のようだ。その証拠は、カーネイジ・マーマンが逃げ出したことにある。
人の血液でしか空腹を解消できなくなったアイツ等は、もはや人間ではない。アイツ等は化け物であり、殺人鬼だ。殺人鬼が四人もこの世に放たれたことで、色々と乱れが生じているらしい。
人を殺しすぎたのだ。奴らの生きるために取った行動は、世界の均衡を乱して居る。
人が減れば、ビーストが増える。ビーストを駆除する生物が減るからだ。そして、増えたビーストは人を襲う。そして、また減る。
それは避けなければならないことだ。
面倒な事になってしまったものだ。この世界も。
クオは大変だろうな。あの女が何をしたいのか、また何者なのか私は知らない。クオがしていることは、まるで神のような行動だ。あの程度をしたくらいで、クオは神にでもなったつもりでいるのか。
いや、違う。クオの目的はそれじゃない。きっとほかにある。
世界を管理する立場にあるあの女は、何かを隠している。
ユコトは、知っているのだろうか。

「春海? どうかしたのか? また娘か?」

アスタリスクの中心にあり、目の役割をしている球体が一回転をした。大正解、とばかりに私は指を鳴らす。テーブルの上に足を乗せる。
コイツの前で格好つける必要なんてないからだ。

「ああ、そうさ。私の可愛いカンコが、死にそうになってそして奇跡的に生還している」

可愛い可愛い私のカンコ。私だけのカンコ。
心配なのは、あの女と一緒の事だ。初めてカンコと赤い女が接触した時に、私は確かに嫌な予感を感じていた。
それなのに、もうその感じはしない。
あれは、私の勘違いだったのだろうか。

それで片付けることができるはずなのに、なぜだか私の胸騒ぎは収まらない。


〜つづく〜


五十二話目です。