複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.220 )
日時: 2012/11/14 20:49
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)


53・恩のようなお節介。


「親方にあんなでかい口叩く奴なんて、初めて見た」

言いたいことを言いきった私は、元のテントに戻ることにした。
飛行船の中に荷物は置いてきてしまったから、私の持ち物はナイフ四本だけだ。
後は、カンコ。カンコも何も持っていなかった。ジャルドも身軽そうだったから、荷物を持ち歩くのは好きじゃないのだろう。
それでもしっかりと生活してきた。それはお金のおかげなのか、そうじゃ無いのか。なんせ、私にはお金が無かった。だから、使えそうなものは大切に保管してきた。でも、ライアーやジャルドや、アームスはお金持ちだろうから、何でもかんでも買い換えてきたんだろうな。
いいなぁ、そんな生活。ちょっと羨ましい。
私が生まれた村には、物には神様が付いているだか何だかとかそういう宗教とかはなかったから、物を捨てることに抵抗は無い。ただ、貧乏性なだけ。

私たちを監視するためなのか、それとも話しかけに来ただけなのか、燕はテントまであとをついてきた。
燕は、さっきまで怒っているような顔をしていたくせに、今はもうわくわくしたような表情に戻っていた。

「怒ってないんだ?」

私が思っていることを、カンコが口に出す。
燕は私たちのためにテントの幕を開いてくれた。三人で仲良く入って腰を下ろす。何だか変な気分だ。
テントの中は意外に温かい。冬が近付いているのだろう。草には霜が降りていたし、ここはもう冬なのかもしれない。
私が置いて行ったお茶は、すっかり冷えてしまっている。もったいないことをした。
燕は自分の髪をいじりながら、笑う。無邪気な様子が、子供みたいだ。私より年下なのは間違いないだろう。背も低いから。

「そりゃあ、親方のことは好きだけど、でもお前らも好きだ。親方の前だと、ヘコヘコする奴が多いからな。親方もそういう奴は嫌いだろうし。きっと親方もお前らが好きなんだろ」

燕の言う通り。本当はヘコヘコしたかった。
怖いし。でかいし。えらいし。強いし。いやいや、分からないけど。それだけの恐怖心を相手に与える事ができるなんて。
ジャルドも、雰囲気を二つ持っている。やさしい紳士の時と、意地悪な男の時。あのギャップのせいで、ジャルドも恐れられて居るだろう。
なら、ライアーは。ライアーも、赤い嘘吐きという二つ名を持っているくらいだ。それなりのカリスマ性みたいなものがあっても良いと思う。
でも、正直言って、無い。
ライアーを見ても、赤い髪と赤い目にしか気を取られない。それだけの男だと思われても仕方がないような気がする。
あの人は、限りなく一般人に近い。なら、なんで二つ名なんて。あの人は一体、何者なんだ。
そんな疑問を持つのも初めてだ。こんなあの人を疑うようなことを思ってもいいのだろうか。

「お前らはおれが助けたんだし、親方の物じゃない。だから、おれがダメっていうまでここに居ていいんだぜ」

なんだか偉そうな燕の言動に、少しイライラする。
アームスという権力が身近にあるだけで、これだけ偉そうにするなんて。
見たところ、全然アームスのような覇気がない。こんな奴が、私たちを助けたなんて。
素直に感謝すべきなんだろうけど。でも、なんだか納得しない。


〜つづく〜


五十三話目です。
進まない。