複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.221 )
日時: 2012/11/16 14:37
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



54・運命のような罪。


凪という男は、全裸なのを全く気にしていない様子で床に腰を下ろした。
私は結構有名のはずなのに、こんなに堂々とした態度をとるなんて。でも、怒ることはできない。
コイツは、多分。私の勘が当たっているなら。目を覚ましてから気が付いた。
死んでいるときには、何も感じなかったが。
魔術を発動させる際に出した私の血で、凪はべたべただ。風呂に入って、服を着て、一休みでもしてからライアーたちに会いに行ってほしい。アイツ等は、コイツを心配して居るから。私が凪を生き返らせるのを、心待ちにしているのだから。
私は凪を生き返らせる魔術を使ったせいで、魔力が低下している。凪をライアーのもとに送る魔術は使えない。それに、私がそこまでする必要は無い。クオの育てた男。ただそれだけ。
クオが企んでいることは、まだ分かっていない。この世界を整頓する者。そして、この世界を荒らす者でもあるクオ。アイツは、この世界に一番必要で、一番要らない女だ。

空気がおいしいとばかりに凪は深く息を吸う。
吐きながら、まるで詠唱をするかのように呟いた。

「……さよか。ワシ、ここで死ぬべきやなかったんやな……。神様が死ぬなってゆうてんやな」

弱弱しい声だ。今さっき死から解放されたのに、まるでまた死ぬというかのように。
私は思わず、手を伸ばそうとした。柄に会わず、励ましの言葉を掛けようとした。
だが、それは叶わない。凪が、私の血の中に倒れこむ。
緊張の糸が切れたのか、疲れたのか。上手く体が動かないのか。
私をちらりと見る。その目は冷めていて、さっき私を心配してきた男と同一人物だとは、思えない。
ライアーたちも、この男がこんなに冷めたような表情を作るやつだとは、知らないだろう。
その瞳に、ぞくりとする。
やはり、コイツは。

「なあ、クイーン・ノーベル」

私の名前を、突然呼んだ凪。知って居たのか。私の名前を。
私はごくりと唾を飲み込む。
哀れだ。この男は。すごく、哀れな男だ。心が。コイツを見ていると、心が。心が、締め付けられる。私に、心があるのか。それは分からない。だけど、息苦しくなる。
コイツが、背負っているもの。それは、罪だ。大きな罪を背負っている。
こうやって、命を引き戻す魔術を使う私にもある、罪。コイツも背負っている。同じような罪を。禁忌の罪を。
そしてそれは、コイツの身を焦がすもの。

「赤き時代は知っているよな。あれを作ったんはたった一人の少女なんや。ほんで、罪を浴びて死んだ。ワシも死ぬんやな、罪を浴びて。せやから、知りたいんや。ワシ、そいつと同じように死ぬよってに」

言い切った後、ヘラリと笑う凪。
それはもう、さっきまで見せていた表情とは全く違う。雰囲気が戻り、柔らかくなったように見える。

凪は、知りたいという。レッドエイジの事を。
雷暝のようにレッドエイジをまた起こすとかいうバカな考えではなくて、自分と同じ人種を知りたいというだけなんだろう。
確かに、仲間が欲しいのは分かる。

ただ、違う。違うんだ。
コイツと、あのレッドエイジを作った少女は違う。
それは、言えない。
苦しくて、言えない。


〜つづく〜


五十四話目です。
凪のターンはきっとまだまだ先だけど、一応伏線です。