複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.222 )
- 日時: 2012/11/16 15:39
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
55・代用品のようなパル。
「どこか痛いところとか、無い?」
彼の体に触れようとすると、彼は嫌そうに身を捩る。
体を縛られて、上手く動かないはずなのに。すごく強情だ。
鮮やかで、どこか不気味な緑色の目。ぎろりと俺を睨むその目。すごく怖い。
ソウガのお気に入りの個だというのも納得できる。
ソウガは変態だから、こうやって強情の方が好きなんだろうな。そっちの方が、面白いって。
ロムは気に入らないだろうな。アイツは、自分の思い通りにならない人間が嫌いみたいだから。
ヒダリも、可哀想だ。今頃、雷暝様のお説教を食らっているんじゃ無いかな。ヒダリはロムを庇って、全部自分で罪を被っていた。
ヒダリは、自分で考えることができない。だから、ロムに考えてもらっているんだ。
倒すために、どうしたら良いのか。どう動けば良いのか。
ロムの指示に従って、ヒダリの体は動く。
すごく速いし、強い。
ソウガも速いし強い。
それに、ソウガもヒダリも、人を傷つけることに抵抗がないんだ。
俺は、ちょっと躊躇うことがある。いくら雷暝様の命令だからって、人を傷つけることは悪いことだと思う。
でも、ヒダリにはその感情がない。そんな感情があるってことを知らないのだろう。
ガーディアンは知っているのか。どうだろう。
俺は、ガーディアンの詳細を知らない。雷鳴様と一緒に居る時間が一番多いのが、ガーディアンだ。
昔、翼について尋ねたことがある。
俺は一応これでも科学者だから、研究をしてみたかったんだ。ガーディアンの事だから、簡単に翼の正体を明かしてくれるのかと思った。
でも、違った。ガーディアンに、あいまいにされた。
ガーディアンは、うまく俺から逃げたんだ。翼の正体を、明かしてはくれなかった。
あの翼は、なんなんだろう。
雷暝様は知っているのだろうか。
「どこも痛くない。だから触るな」
冷たい声に、彼の髪を撫でていた指を引っ込める。だけど、すぐにまた手を伸ばして、彼の腰のあたりを掴んで持ち上げた。
流石に抱き上げる事はできない。俺は筋力がない。部屋の壁に、寄りかからせてあげる。これで少しは楽だろう。ずっと同じ格好をしていると疲れるだろうから。
勝手なことをしてはいけないとは分かっている。些細なことが、雷暝様の機嫌を損なってしまう。だけど、一応大切な人材だ。
パル・トリシタン。
唯一、赤の時代を起こす魔術を完成間近まで作り上げたのは、パルの母だ。クイーン・ノーベルに封印されたが、でもパルが居る。パルが居れば、何とかなるかもしれない。
雷鳴様は、この世界を変えたいのだ。どうにかして、この世界を。だから、起こさ明ればならない。
赤の時代を。もう一度。
「……世界最強の人工知能、アスタリスク、か」
だけど、俺はそんなことはどうでも良い。
俺が知りたいのは、俺が興味があるのは、世界最強の人工知能であるアスタリスクのことだ。
〜つづく〜
五十五話目です。