複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.223 )
日時: 2012/11/16 21:29
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



56・人間のような機械。


アスタリスクは、世界最強の人工知能だ。体全体が機械でできている。物を見ることも、音を聞くことも出来る。考えることだってできるし、欲望も自我もある。
だが、魔術は発動できない。言葉を発することが出来ても、その声はアンダープラネットまで届かないのだ。アンダープラネッターは、人の声にしか耳を貸さない。自分たちのプライドが、人以外の何かに反応する事を拒んでいる。
アンダープラネッターの存在が明らかになったのは、はるか昔のこと。赤き時代が訪れる、もっと前。しかし、アンダープラネッターの存在が明らかになったからと言って、魔術をすぐ使えるようになった訳じゃない。魔術を発動させることが出来る人間は、まだまだ少なかった。
そうにもかかわらず、今魔術を使える人間が多いのは、赤き時代に関係してくること。

「アスタリスク、教えてくれないか」

春海は、聞きたいことがあってここに来たらしい。
アスタリスクが可愛がっていたカーネイジ・マーマンと呼ばれる四人組。彼らの足取りはまだ掴めていない。
アスタリスクは生憎、ここから動くことができない。だから、顔が広い春海に頼んで探して貰っているわけだ。その代りに春海の質問に正直に答えること。そう言う契約だった。
アスタリスクと春海は決して友人じゃない。ただの、都合の良い相手だ。
春海は、自分の娘を完璧にすることに夢中だ。春海の娘は、春海の魔術を植え付けられて居る。娘自体が魔術らしい。詳しくは知らない。会ったこともない。
ただ、可哀想だとは思う。アスタリスクも大概だが、春海も変態だから。一体どんなことをされて魔術を植えられたのか。想像するだけで鳥肌が立つ。肌は無いけど。表現として。
禁忌ではない。魔術を自ら作る事は別に悪いことじゃない。
でも、この世界に流行ってはいけない事がある。この世界のルールのような者で、破ったものにはそれなりの罰が与えられる。
例えば、クイーン・ノーベル。彼女は、魔術を手に入れすぎた。その魔力で、神に近いことをしてしまったのだ。それが彼女の罪。そして、罰は色だ。彼女には色がない。彼女の世界には色がない。
ただそれだけなのだ。神になろうとした彼女には、たったそれだけの罰しか与えられなかった。
理不尽だ。この罰の重みは、誰が決めているのか。
神という人もいる。まだ見つかっていない、何かだという人もいる。
アスタリスクは。アスタリスクは、何も思わない。ただ、そういうルールなのだ。ルールは飲み込むしかない。
アスタリスクはそう思う。
この世界に生きる人間の宿命だと。

「なんだい、春海。何か知っていることがあるならアスタリスクが教えてあげるよ」

嘘をつくよ。人は簡単に嘘をつく。アスタリスクを作ったのだって、人だ。つまり、アスタリスクも嘘をつくよ。だけど、それを信じるか信じないか。それは春海の自由だ。春海も人間なのだから、きっとアスタリスクのように嘘をつく。

みんなお互い様だ。
みんな同じように、罪を背負っているはずなんだ。
だから、平等に罰を与えられている。

地面を這うことしかできないという、大きな罰を。


〜つづく〜


五十六話目です。
さてと、すこしづつ溶かしていきたいですね。