複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.225 )
日時: 2012/11/22 17:14
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)


58・強がりのような照れ隠し。


「あの、燕さん、なんで私たちを助けたんですか?」

非常識なことを言っているのは分かっている。でも、聞いておきたかった。
私だったら、助けない。だって、自分の身が大切だから。そりゃあ、人が目の前で死ぬのは嫌だけど、助ける事なんかできない。私だったら、できない。自分にはできないと、結論づけて諦めるのに。
それなのに、燕は違うってことだ。勇気があるんだ。

もう、なんで私の周りってこうも勇気のある人ばかりなんだ。
ライアーは、ちょっと違うけど。凪とか。アスラとか。お姉さんとか。クイーン・ノーベルとか。ジャルドとか。カンコとか。
私に勇気がないって言われているみたいだ。最悪。でも、いい機会だと思う。変わる、チャンス。ライアーの足を引っ張ったり。いろんなことがあった。
以前の私に教えてあげたい。貴女は変わるんだよって。貴女には変わるチャンスが来るんだよって。

燕は眩しい顔で笑うんだ。カンコはそんな燕をじっと見つめている。
カンコは、基本無表情だ。そして、私と燕が座っても、座らない。経ったままの姿勢でいる。
気を抜かないためなのかどうかは、知らないけど。
カンコ、疲れないのかな。

「そりゃあ、うーん。なんでだろうなぁ。おれ、基本何にも考えないからさぁ」

燕は笑っているけれど、視線が安定しない。きょろきょろして、私とカンコの方を全く見ようとしないのだ。そこが不自然で、なんだか嫌だ。もっと自信満々でいてほしい。私にまで、なんだか不安が伝わりそうだ。
燕は落ち着かない様子で、胡坐をかいた足を組み替えたりしている。

「でも、助けたかったんだよ。だってさあ、おれも、親方に助けられたし」

そう言った後、何かを思い出して頬を赤らめる。
なんだ、この反応は。それを忘れようとするかのように、頭を掻く。そのせいで髪の毛がぐちゃぐちゃだ。
燕は髪に執着が無いのか、痛んでいる。もっと気を使っても良いと思うんだけど。執着が無いはずなのに、なんでこんな髪形をしているのか。それも疑問だ。
何だか燕は疑問を感じる点が多いな。それを解決できそうもない。

カンコは、そんな髪を治すために、燕の頭に手を伸ばした。

「っ!! 何すんだ! 触るな!」

その手を、燕が勢いよく叩いた。
乾いた音がして、カンコも私もぽかんとする。なぜか、叩いた本人である燕さえも。
カンコは叩かれた手を胸に寄せて、もう片方の手で撫でる。よほど燕の力が強かったのか、カンコの手は赤くなってきていた。
燕は急いでカンコの赤い手を取ろうとするが、その手を引っ込めて胡坐をしていた足の上に乗せた。

「あ、えっと、悪い……。お、おれ、お、女の子とか、と、あんま喋ったこと、なくて……」

「……別に、大丈夫」

頬を赤く染めて、燕は目に涙を溜める。
口ごもる彼の姿は、子供みたいだ。それに比べて、燕よりも背の低いはずのカンコは堂々としている。
何だかその違いに笑ってしまう。

私が笑ったのを見て、カンコも軽く笑う。
それに対して、燕はきょとんとして、やがて少しだけ拗ねた。


〜つづく〜


五十八話目です。
久しぶりにコッチのターン。