複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.228 )
- 日時: 2012/11/22 18:43
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
61・足手まといのような支え。
「……一緒じゃないんだな?」
そういっているようにしか思えなかった。自信がなさそうな顔は、俺によく似ているから。不安そうな顔。
俺が言うと、ムーヴィは、苦しそうな顔をする。
図星か。嘘が下手だな。まるで赤女みたいだ。
アイツは、不満があるのに言わないから。不満そうな顔をするくせに、俺にはっきりものを言わないから。俺に遠慮しているなら、止めて欲しかった。
俺は、遠慮されるような人間じゃない。俺は、弱いから。強くなんかない。
だから、もっと叱ってほしかった。もっと俺を正してほしかった。そうやって他人に言われないと進めない俺を、助けてほしかった。
誰も、助けてくれない。そんなのは知っている。
俺は、俺の足で進むしか無い。俺の頭で考えるしかない。そんなのは知っている。知っているはずなんだ。
はずで。
それから逃げてばかりだ。結局俺は、助けられることも怖い。怖い怖いって言って、逃げてばかりだ。
赤女も、同じ。
逃げてばかりで。弱くて。俺に守られてばっかりで。アイツが居たから、俺は何とか自分を支えていたのかもしれない。自分が居ないと死んでしまう人間が、欲しかったのかもしれない。
俺は、欲張りだ。
人に与えられるのを待っているだけの、最低な人間。
「おぉーい、何をしているのかと思えば、何? 喧嘩?」
緊迫した空気に、間延びした変な声が混ざる。見ると、テントの軍団の方から歩いてくる一人の女がいた。
青と銀色の軽そうな鎧を身にまとい、普通の刀よりやや長い剣を腰に刺した、癖のある金髪の女。カンコよりもずっと濃い、青色の瞳。長い金髪を束ねることもなく、胸の辺りで揺らしながら歩いてくる。
その女を、ムーヴィが睨むように見た。
分かる。
この女、結構強いな。
アスラほどの殺気は無い。銀ほどの突拍子もない。ジャルドほどの技術もない。アームスほどの力も無い。
コイツは、心が強いんだ。頭が良い。
それがなぜか、分かる。
真の抜けたような顔をしているくせに、本性はそれなりらしい。
まるで、この柔らかい空気が偽りのようだ。
「おー? 赤い嘘吐き。見るのは初めてだ、初めまして」
鎧女はやけに丁寧なお辞儀を見せた後、俺に手を差し出してきた。
俺はそっとそれを握る。少し痛いくらいまでに握って来たので、握り返した。
女は俺の手を払うようにして離して、それを鞘の上に置く。
癖みたいだ。良い心がけだと思う。何時敵が襲って来るか分からない戦場で、気を抜かない事は。
俺は戦場に立ったことはあまりないけど、今までビーストの大群に襲われたことならあるし。
それの人間バージョン。知性の高いビーストと思えば同じことだろう。
「ダルトファルト騎士団三番対隊長、レドモン。ああ、ちなみに名前で呼ばないでね。レドでもレモンでも良いから。レドモンって呼ばないで」
〜つづく〜
六十一話目です。
あと八話。