複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.229 )
日時: 2012/11/22 20:27
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



62・同情のような無情。


鎧女は、念を押すかのようにそれを強調した。ジャルドはずっと黙ったっきりだ。ムーヴィの視線は相変わらず痛い。
ムーヴィとしては早く達羅を安全な場所に移動させたいだろう。これだけ息が荒いとなると、休ませてあげたくなるのも無理はない。しかも、自分をずっと支えて来てくれた人物ともなれば。

カーネイジ・マーマンの闇を、俺は良く知らない。知ろうとも思わない。
カーネイジ・マーマンの闇は、アスタリスクの闇でもある。
世界最強の人工知能、アスタリスクの手がけた芸術品、カーネイジ・マーマン。人の生き血を食らう獣。
カーネイジ・マーマンはもとは人だった。だけど、アスタリスクによって改造され、実験を重ねられて、血でしか栄養を補給できなくなった。
暗い牢獄にも近い環境で、実験のためだけに開かれる扉。
それをじっと見続けるだけの毎日から解放されたカーネイジ・マーマン。
そんなことをクオに言われた。
そして、同情するかどうか、聞かれた。俺は、分からないと答えた。
分からない。自分がどう思っているのか、分からない。どんな思いをしたのか、理解できない。想像もできない。
どんな気持ちだったんだろうか。アスタリスクに、物として愛される感情は。
まるで、雷暝みたいだ。話だけ聞いていると、アスタリスクは凄く雷暝に似ている。
奴は、クオの配下で働いていたはずだ。でも、どこかつかみどころがないアイツは、よく自分勝手に行動をしていた。
アイツのしたいことはいまだによく分からないが、それを実現させるためにアイツはきっとどんなことでもする。
怖いくらいに盲目なんだ。

「なんでだ?」

「物わかりが悪いですね。もう一度言わないと駄目なの? バカは嫌いよ」

レドモンはそう良いながらも、ニコニコしている。
感情が欠落しているのか。コイツには、なんだか負の感情がないようにも見える。

俺は髪を軽く掻き上げながら、息を吐いた。

「……レド。それで、お前らは誰と戦っているんだ?」

流石にレモンと呼ぶには気が引ける。
俺の言葉に満足した様子のレドモンは、ムーヴィの腕の中の達羅の顔を覗き込んだ。

「なんで私が誰かと戦っているように見えたの? まあいいや。そんなことにはあまり興味がないですから。そうですね。あるギャングと争いになっています」

なんだか安定しない口調に、くらくらして来る。

ギャング、か。
確かにアームスの率いている集団はギャングかもしれない。アイツは、あまり善悪に執着が無い。
この世界の良い事と悪い事を分ける基準なんて、アイツにはゴミに過ぎない。

レドモンは何かを思い出したように眉を顰めた後、テントに向かって歩き出した。それに続いていくムーヴィ。
レドモンと知り合いなのか。それについては気を配っていなかったけど、そうなのかもしれない。
いったい、どんな関係なんだろうか。

頭を悩ませる俺に、レドモンが振り返って手招きをした。


〜つづく〜


六十二話目です。
あと七話。