複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。参照100が嬉しすぎて腕がおれた ( No.23 )
日時: 2012/05/10 21:09
名前: 揶揄菟唖 (ID: yZ7ICI8F)
参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_test/view.html?526461

13・赤、黒に頼む。


次に目が覚めたときは完全に朝だった。
急いで身体をベッドから起こして、窓を開ける。

昨日と同じ少し冷たい空気が耳元を掠めていった。
ゴウゴウというすさまじい音がすぐ側で聞こえている。

寒いなんてことはどうでも良かった。

ただ今大切なのはあの町だ。

昨日の夜見た時よりもやはり近づいていて、朝焼けのオレンジ色の光が、町を照らしていた。

夜見たときもネオンが光り、綺麗だったけれど、今の町の姿も充分美しい。

ビルが真ん中の塔のような物を囲むかのように建っているのが、はっきりと見える。

そうだ。
あの塔だ。
あの塔が。
ずっと憧れていた、ハラダ・ファン・ゴブランドの本社。
ここから見てもその気品はにじみ出ているかのようだった。
気品とか良く分からないけど。
まぁ、気品なんてどうでもいい。
私の気持ちはもう天に舞い上がっていた。
あそこで、あの0が一杯つく値段の武器を作っているんだ。
凄い、凄すぎる。
行きたい。
ぜひとも見学したい。
なんていったってこっちにはあの有名なハンター『赤い嘘つき』が居るんだ。
絶対見せてくれる。
もしかしたら何かくれるかもしれない。

段々と荒くなってきた鼻息を抑えようと窓を閉めて、ベッドのそばに置いてあったスリッパに足を突っ込んで、食堂に向かう。

さっさと顔を洗いたいところだがしょうがない。
ライアーに会って話をつけなければ。
絶対いきたい。
行かせてくれなきゃ、泣く。
大泣きしてやる。

廊下をしばらく歩き、突き当たりに来たところで大きなドアを開け放った。

そこには案の定、食堂の窓際の席について呑気に飲み物を啜っているライアーの姿があった。

「おはようございます!」

元気に叫んでからまず敬礼。

相手の機嫌を損ねないようにしなくてはいけない。

いつもより静かに、優雅に歩いてライアーの向かいの席に腰を下ろす。

「……おう」

私の挨拶の返事にしては随分と小さい声だし、言葉も間違っている気がするけど、詮索しない。してはいけない。

「もう随分と町が近づいていますよ」

少しだけ緊張した。

意味分かんないけど、こうやって改めて話すのは、初めてかもしれない。
依頼の時は何だかんだいってあまり上手く話せていなかったし、昨日の夜ご飯の時だって私は肉に夢中で殆ど喋っていない。
雪羽と言うのか。
はい。
じゃあ南のほうの島国の生まれか。
はい。
この程度だったか。
うわぁ、ひどい。
これからずっとというわけでもないけど、しばらくは一緒にいるんだ。
こんなので大丈夫なのか。

「そうだな」

コックさんが私の分のコーヒーを運んできてくれたので、ありがたく頂戴する。
砂糖を何個か入れて一口飲むとまだ苦かったのでホットミルクを少し入れた。
そんな私の様子を見ていたライアーは眉をひそめていた。
しょうがないじゃないか。
苦いのは苦手なんだ。

「あとどのくらいで着きますか?」

ついでに猫舌の私は、コーヒーに息を吹きつけながらライアーを見る。
ライアーはコーヒーカップをテーブルの上に戻して、少し考える素振りを見せた。

「あと3時間ほどだ」

私に返事を返した後、ライアーはコックを呼びつけて朝食を持ってくるように指示をしていた。

あと、3時間、か。

意外に早いと思った。
まだまだ掛かるんじゃないかと思っていた。
あと3時間、あと3時間で生まれて初めての都会に。
憧れのハラダ・ファン・ゴブランドの本社に。

あ、忘れていた。
危ない危ない。

「あの、ここからでもハラダ・ファン・ゴブランドの本社、見えますよね」

冷めてきたコーヒーを、一気に飲み干した私は、忘れかけていた本当の目的に手を出した。

「そうだな」

うっ。
口数が少ない。
ただそれだけのことだけど、なんだかプレッシャーになる。
どうしよう。
機嫌が悪いのかもしれない。

うじうじしていても仕方ないし、言っちゃえ。

「い、行きたいんですけど!」

思わず感情が昂り、机を思いっきり叩いて立ち上がってしまった。

しばらくして恥ずかしくなってもう一度腰を下ろそうとした時だった。

「いいぞ」

ライアーが私を直視しながら放った言葉は、あまりにもあっさりしていたので一瞬何を言っているのか分からなかった。

いいぞ?
つまりいいのか。
いい?
いい!

「やった!! ライアーさんありがとうございます!」

ライアーと握手を交わしたいところだったが、ライアーはもう運ばれてきていた朝食を食べ始めていたのでそれは叶わなかった。

なんだ。
いい人じゃないか。
冷たくてぶっきらぼうだけどいい人だ。
これならこの先苦難はなさそうだな。

頭が幸せになった私は、朝食の生ハムが乗ったパンを一口ほおばった。
凄く美味しかった。


〜つづく〜


十三話目です。
最近更新するのが多いですね。
気分が浮かれているからかと。
予定通りの題名じゃなかくてごめんなさい。


次⇒赤、都会を歩く。(今度こそ!)