複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.234 )
日時: 2012/11/24 11:30
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



67・善人のような怪物。


挨拶は終わったみたいで、親方と数名の人たちが一つのテントに入っていった。細かい最後の指示を出すらしい。
その中に、燕は居ない。
燕は私たちの方に近寄ってきて、笑う。
元気そうだけど、燕の服装は変わらない。
そうか。戦いは熱くなるもの。だから薄着で良いんだ。
燕は戦うらしいし。

「親方のところには行かなくて良いんですか?」

私が聞くと、燕はしゃがんで準備運動みたいな、ストレッチを始める。
カンコは常に周りを警戒しているみたいだ。

「良いんだよ。おれ、隊は持ってないし」

「え? 持ってないんですか?」

「そうそう。単独行動すんの」

意外だった。さっきまで挨拶をしていたし、てっきり副隊長とかそんな偉い称号を持っているんだと思ってたけど。違うんだ。
燕は、強いのか弱いのか分からない。もしかしたら、それほど強くないのかもしれない。助けてくれた燕はただの気まぐれだったのかもしれない。
助けたかったとは言ってくれたけど、それとこれとは話が違うしな。助けてくれて、気合が十分ってだけじゃ隊長にはなれないんだ。

「おれには人を誘導するとかー守るとかー考えるとかー、そういうのは向いてないんだよね」

数回地面でジャンプをしたりといった、一見無駄に見えるストレッチもしている。
見たところ、武器は持っていない。体で戦うのかな。こんなに小さな体なのに。それでも頑張るんだ。
小回りが利くとか、そういうことなのかな。

燕は何かを思い出したように、手を打った。

「ちょっと待ってて!」

そういって、一つのテントに向かって走り出した。しばらく中に入っていたけれど、その中から一人の女の子を連れて出てきた。

年齢は分からない。髪を二つにまとめた、可愛らしい女の子。薄汚れた服と、オレンジがかった茶色の目。同じ色の髪。
もちろん、知り合いではない。ただ、カンコの周りの空気が張り詰めたのが分かった。
女の子は、とても疲れているように見える。けど、とっても強い光を宿した目をしているせいか、その暗さを吹っ飛ばしているように見えた。

女の子を私たちの前に連れてくると、燕は女の子の髪を撫でる。

「この子は、アシュリー。アシュリー、雪羽とカンコ」

アシュリーはふんわりと笑って、私に手を出してきた。
私はその手を握って、挨拶を交わす。私を握手を交わして、アシュリーはカンコにも同じように握手を求めるけど、カンコはそれに答えなかった。
失礼だな。良い人みたいなのに。
同性であることもあって、この人に敵対心は抱かないな。
偏見かもしれないけど。

「お前ら三人には、一緒に行動して貰う」


〜つづく〜


六十七話目です。
あと二話。