複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.236 )
日時: 2012/11/24 14:52
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



69・快楽のような戦闘。


迫ってくるアームスの軍隊と、レドモンの騎士団。装備はこっちの方が勝る。
だが、アッチにはアームスが居る。そして、あのアームスの隣に居る少年は。
速いな。跳んだ。人間とは思えない跳躍。空中で一回転して、先頭に居た騎士団の男を、盾ごと吹っ飛ばした。
明らかに狼狽えている騎士団。あっちの方が士気が強い。しかし、レドモンは何も言わない。
普通は、こういうときは部下の士気を上げるために声を掛けるのが普通なのに。レドモンは楽しそうに、その様子を眺めている。

見ていられない。
俺は駆けだした。後ろの方で狼狽えている若い騎士団員の腰から、剣を奪う。
刀系の武器を買うのを、すっかり忘れていたから。仕方がない。
ジャルドは俺の背後をカバーしている。
俺はアームスの方を見る。だがアイツは、目の前の敵に必死になっていて俺に気が付かない。

くそ。ふざけるな。
こんなことをしている場合じゃ無いのに。
俺はなるべく相手を傷つけないようにしながら、アームスの方に向かう。
俺の名前を呼んでいる声が、あちこちから聞こえる。騎士団に俺が居るのは予想外だったのか。
俺は声を上げようとする。

アームス。俺に気が付け。こんなことは終わりにしろ。こんなことはしているときじゃない。いろいろと用事があるんだよ。カーネイジ・マーマンの件とか。凪とか。赤女とか。

だから、俺の声を聞いてくれ。


 + + + +


「結構お前、強くねぇ?」

地面に手をついて、廻る。それで勢いをつけながら、蹴り上げる。足を地面に戻しながら、また手を着く。三度繰り返す。暇を与えない。
頭がぐるぐるする。
だけどおれの攻撃を全部、銀髪は避けていく。

おれの髪の毛は、耳の辺りで垂らして、そこだけを長くしている。コイツはその片方だけバージョンみたいだ。
瞳も変な色をしているし、おれと同類なのかと思う。
つまり、汚れた血が混ざっているとか。そういうのだと思った。
しかし、違う。コイツはあくまで、純粋に人間だ。
どこか違う。どこか違うけど。

銀髪が、地面に手をつく。
まさか、おれと同じ事をする気か。大丈夫。腹を蹴ってしまえば良い。
しかし、違った。
銀髪は、体勢を低くしたまま、掌で地面をこすって足払いを仕掛けてきたのだ。
驚いて、飛び退く。
同時に銀髪が立ち上がって、体勢が崩れたおれの頬に、殴りかかってきた。

「マジで? 褒められんのとか、久しぶりかもっ!」

銀髪が嬉しそうな顔をする。
そうかも。おれ、楽しいかも。コイツと戦うの。
だってなんか、おれとコイツ似ているし。なんか、似ているし。頑張って生きている感じするし。
コイツのことは、嫌いじゃない。

だからじゃないけど、おれは銀髪に殴られて、吹っ飛ばされた。
掌はかすり傷だらけのはず。
なのに、怯まない。おれは頬を拭いながら、折れた歯を地面に吐き出す。
ああ、口の中が鉄の味がして不快だ。

「本気で来いよ。俺、達羅銀孤」

「……言われなくてもするぜ。おれは燕」


〜つづく〜


六十九話目です。
はい、これでなんと。