複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【200話到達しました…】 ( No.241 )
- 日時: 2012/12/02 11:14
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
- 参照: http://id24.fm-p.jp/456/yayuua/
73・親父のような親方。
目の前の物から、目が離せなくなった。縛りつけられたように、体が動かない。
アンダープラネッター。誰かが召喚魔術を起こしたんだ。
rinを出す程度の魔力を持った人。だからと言って油断はできない。rinだけでも、十分な戦力になる。
今だって、敵も味方もパニックに陥っているし。俺だって動けない。
聞いただけだ。アンダープラネットに住むアンダープラネッター。そいつらの力を借りて、魔術を発動させる。
そんなものは、話だけでしか聞いたことがなかった。
親方。
親方は、どこだ。
おれの方に、rinが傾いてくる。迫ってくる。どうしよう。このままじゃあ、おれは下敷きになってしまう。
だけど。
動かない。
rinが。
rinが、おれを見ている。
おれを。
「燕!!」
声が聞こえた。おれの名前だ。おれだけの名前を呼んでいる人が居る。
大地を震わせるような、力強い声。
親方だ。
振り返ろうとして、失敗した。親方がおれの腕をつかんで、抱き上げる。親方の筋肉で包まれた太い腕が、おれの腰をがっちりとつかんだ。
そして。
親方が、おれを見る。
rinの影で、辺りが暗くなる。
声が遠い。いろんな人の声が聞こえる。
だけど。
親方の声は、しっかりと耳に届いた。
「————生きろ、燕」
当たり前のことを言った。
ああ、生きてやる。
こんなクソみたいな人生で、こんなクソみたいな体をしていても、生き抜いてやる。
親方が、おれをぶん投げる。
おれの体は、親方に吹っ飛ばされて、一気にrinの影から出た。
倒れこむようにして地面に着地して、膝をすりむいているのにも気にしないで、振り返る。
親方。
直後、rinが倒れた。
地響きのように大きな音がして、大地が揺れる。土煙で、辺りが一気に見えなくなった。
目に砂が入って、開けない。
耳が痛い。
だけど、分かった。
親方。親方は。
「……親方……?」
聞こえない。自分の声さえ聞こえない。
体から力が抜けた。
生きてやる。
それで、いつかアンタを超えるんだよ。
おれを救ってくれたアンタを超えて、それで、ずっと一緒に居るんだ。おれをゴミから救ってくれたアンタを、ずっと支えてやるんだ。
アンタを超えるようなハンターになって、ゴールデンアームスなんて言う二つ名より、もっと大きくてかっこいい名前で呼ばれるようになってさ。
それで、いつか。
いつかアンタを、『親父』って——————
生きろって、なんだよ。
なん何だよ。それ、なんだよ。
親方が、死んだ。rinの下敷きになった。
木端微塵だ。
それならもう、生き返らせる事はできない。体がないのだから。
「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
おれの両目から、だらしなく涙が溢れた。
狂ったように、拳で地面を叩く。
拳が割れる。
そんなのは気にしない。
おれは。
おれは、許さない。
親方を殺したやつを、許さない。
〜つづく〜
七十三話目です。
親方あああああ。