複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.244 )
日時: 2012/12/03 17:22
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
参照: http://id24.fm-p.jp/456/yayuua/



76・眠りのような目覚め。


rinが叫んで、一番反応をしたのは燕だった。
私はみんなが慌てているのを見て、ただドキドキしていた。

台無しだ。みんなが落ち着きを取り戻しかけた時に、rinが吠えたものだから。みんなのパニックが再発した。
私は慌てて何かを叫ぼうとした。みんな落ち着けって言おうと思った。しかし、私が叫んだところで、何も変わらない。部外者の私が何を言ったって、みんなは何も反応してくれない。

だから、燕に頼ろうと思った。燕なら、みんなに声を掛けてくれる。この混乱を収めてくれる。
そう思った私の考えは、すぐに裏切られることになる。燕がまた蹲っているのだ。
頭を押さえて、大きく横に振って居る。
口から声ともいえないものを出していた。
そして、なにより。髪が。
燕の頭から垂れた二本の髪の束が、虹色に色を変えていくのだ。いつもは緑っぽい黒い髪が、鮮やかな光を放っている。

私は何か良くない事を感じた。なんでか、燕が危険だと思った。肩をつかもうとした。
平気かって、聞こうかと思った。どうしたんだって、言おうと思った。
しかし、私が燕の肩に触れると、鋭い痛みが走った。
指先を見ると、赤い線が入って居る。
切れたんだ。紙で切ったかのように。
燕の肌が、ささくれている。ざらざらしている。紙やすり。とっさにそんな考えが浮かんだ。
燕の肌が、凶器と化している。

私はだけど、止めなかった。
手がどれだけ傷つこうが、燕の肩をつかんで、目線を合わせた。

目が金色に光って、焦点が定まっていない。

「燕さん!!」

「……でる、呼んでる。呼んでる、呼んでる」

意味が分からない。
だけど、良くない。こんな状態で、この状態で、みんなを引っ張っていけるのは、燕しかいない。
私はみんなを見渡した。
みんな。みんな、落ち着いてくれ。

ビーストの大群が迫ってきている。
呼んでいると、燕は言った。
呼んだんだ。rinが仲間を。同士を。だから、集まってきている。

みんなはビーストの大群が迫ってきているのを見て、顔を青くしていた。
戦えなんて、言えない。このままじゃあ、敵も見方も仲良くビーストのエサだ。

冗談じゃない。カンコは、無事に逃げただろうか。

唇を噛んだ。
そして、燕の頬を力いっぱい打つ。
驚いた顔で燕が固まって、私に焦点が合う。
でも、目は金色のままだ。髪の色は、だいぶ落ち着いたみたいで、色の変わり方が緩やかになった。
今もゆっくりと緑から青に移ろうとしている。

私がこんなことを言える立場じゃ無い。
私は偉そうなことは言えない。
だけど、このままじゃあいけない。そんなことをわからない燕をたたいてもいいはずだ。

多くの人が死ぬ。

「これ以上、人を失くしちゃいけないです。分かっているはずです、燕さんなら」


〜つづく〜


七十六話目です。
ようやく終盤かもしれません。