複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.248 )
日時: 2012/12/07 19:03
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
参照: http://id24.fm-p.jp/456/yayuua/



80・仲間のような親友。


誰かが、俺の名前を呼んだ。二つ名じゃなくて、息が詰まるほど懐かしい名前で。なんでそんな名前が、この空間にこだまするのか意味が分からなかった。
声がした方を振り返ると、マリンブルーの男に連れ去られて行く、赤いジャージが見えた。
なんで。なんで、ここにアイツが。なんで、アイツが俺の名前を。
そんなことは考える前に、腕を伸ばした。
返事をしないと。
しかし、俺の視界は次々と現れるビーストで埋め尽くされて行く。

俺は剣を一心不乱に振った。だがしかし、何も考えないで振るう剣は何も捉えない。
俺の脇腹に鋭い痛みが走って、ようやくするべきことに気づく。
赤女が生きていた。一気に情報が流れ込んできて、頭が痛い。
だけど。だけど、何も考えない訳にはいかない。
頭を振って、すべての思考を排除する。
赤黒い液体がコートを濡らしていく。噛み付かれたんだ。防具を突き破った牙が、俺の中身を貫いたんだ。
だが、肉を持って行かれてはいない。

たかってきているビーストを排除しながら、辺りを見渡す。
状況は掴めない。混乱のさなかであることは分かる。
山のようなビースト。
それは、お互いに倒すべき相手ではない。
だからこそ、どちらも何をして良いかわからなくなっているんだ。
そこで、あることに気が付く。
奥歯を思いっきり噛み締めた。
カーネイジ・マーマンの二人が居ない。逃げたか。そんなことは後回しだ。
レドモンと、俺の隣で戦っていた獣のような少年が、戦っていた。ゴールデンアームスは死んだ。それでも諦めていない獣のような少年が、怒りに体を任せてレドモンを追い詰めて行く。
これで、どちらかが勝てばそれで終わり。それを見守る事しか俺にはできないのだろうか。
何か、俺にできることは。

待て。待て、俺。考えろ。なんだ。俺は、何をしにここに来た。戦いを止めるため。今となっては、戦っているゴールデンアームスは居ない。居るのは、ゴールデンアームスの側に居た獣少年。
俺は何をすればいい。
赤女が生きていたことは嬉しい。顔を見る前に、連れ去られてしまったが。
どうすればいい。
俺一人では、この混乱は止められない。
俺はどうすればいいんだ。俺は、何をすればいいんだ。俺は、何がしたいんだ。
誰か教えてくれ。誰か。

「ライアー、何浮かない顔してんだ?」

突如、俺の肩を誰かが掴んだ。
振り返ると、全身にビーストの返り血を浴びたジャルドが立っていた。
そして、その腕には長い綺麗な髪をしたカンコ。
無事だったんだ。
俺は、知らず知らずのうちに掻いていた汗が頬を渡るのを感じ取る。
そして、涙が溢れそうになって弱音を吐きそうになるのを必死でこらえた。

カンコが、そんな俺の髪を撫でる。
混乱だ。大混乱だ。
敵も味方も、俺の頭の中も。全部。

その中で、この少女は不気味なくらいに落ち着いている。

「私に、任せて」


〜つづく〜


八十話目です。
長いですね。でもきっとあと少しです。