複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.250 )
- 日時: 2012/12/09 16:51
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
- 参照: http://id24.fm-p.jp/456/yayuua/
82・後悔のような信念。
少女の魔術は、すべてを消した。
呆気に取られていたが、すぐにおれの体を押さえていた鎧女の体を突き飛ばす。いきなりのことで対処ができなかったのか、簡単に女の体はおれから離れた。
しかし、女もバカではない。すぐに剣を構えながら立ち上がる。おれも、後退して距離を取る。
コイツが。コイツが、敵の頭。そんなのはもうわかりきっていることだった。
明らかに、周りの雑魚と格が違う。纏っている雰囲気が違う。
何度か攻撃を当てても、怯むことなく突っ込んで来るその根性。おれに攻撃を当てる剣のセンス。
強い。
さっきの銀髪も強かった。
rinが出てきたときに、飛びついてきた明るい茶髪を二つに結った女に連れられてから、姿は見ていないが。どうしても急がなければいけない用が有ったらしい。
そんな事はどうでもいい。
あのまま銀髪と戦っていたら、どっちが勝つかわからなかった。いや、おれが勝てたかどうか。思い出すだけで、背筋が凍る。
おれは手を何度か開閉する。
感覚がうまく掴めない。
雪羽。雪羽が、マリンブルーに連れられてどこかに消えてしまった。
後を追わなくてはいけない。おれの目を覚まさせてくれた雪羽。
雪羽の言葉がなければ、おれはもっと多くの物を失っていただろう。
おれはグッと片足に体重を乗せる。
親方の仇。
踏み込もうとした時。
俺と鎧女の間に、さっきの赤髪が割って入って来たのだ。
黒い手袋をした両手でおれたちの行動を邪魔する。
「そこまでだ」
「なんだよてめぇ!!」
怒りに任せて叫ぶと、赤髪は髪と同じく燃えるような赤い目でおれを睨んだ。思わず体の力を抜く。
赤髪は、ゆっくりと両手を下げた。
コイツはさっきまで持っていた剣を捨てて丸腰だった。けれど、少しでも動いたら何かしらの行動でおれを抑え込む事は明らかだ。
おれは仕方がなく鎧女がいるであろう方向を睨みつけながら、地面に腰を下ろす。
赤髪で見えないが鎧女も武器を置いて地面に座ったようで、赤髪がゆっくりとした口調で話し始めた。
「俺は、レッドライアー。お前ら、いや、ゴールデンアームスの抗争を止めに来た。ある人の依頼でな」
ゴールデンアームス。親方の二つ名。
その名前が出ただけで、涙が出そうだ。
親方は死んだ。殺された。そんなのは分かっているのに。
まだおれの髪を撫でてくれるような気がして。帰ったらまた、おれに色んな事を教えてくれるような気がして。
おれはあいつの弟子だ。
弟子だったけど、何もできなかった。おれは無力だった。最後の最後まで、親方の枷でしかなかった。
剣になりたかった。
おれはあの人の、武器になりたかったのに。
「だから、お前ら。穏便に済ませねぇか? これ以上、死ぬべき人間はここにはいない」
〜つづく〜
八十二話目です。
あと少し。もしかしたら次で最後です。