複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.251 )
日時: 2012/12/10 16:57
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
参照: http://id24.fm-p.jp/456/yayuua/



83・終わりのような始まり。


穏便に済ませる。
そんな発想は、この目の前の鎧女も、親方ももちろんおれもなかった。ただむかつくから、相手がこっちの要求を呑んでくれないから、戦う。争う。その行動が悪いとも、おかしいとも何も思わなかった。
それだからこそ、このレッドライアーが言ったことを瞬時に理解することは出来ずに飛び掛かりそうになった。

だけど、一つは分かった。
もうここに、死んでいい人間は居ない。この世界にはそもそも、死ぬべき人間は居ないのだから。
だから、これ以上戦っても無駄だという点においては納得できた。
確かに。もうこれ以上戦っても人が死ぬだけだ。それなら、話し合いで済ませる方がいいかもしれない。

しかし。

「何言っているの? 私とこの野蛮な少年となんで話し合いで済ませなくちゃいけないの? こんなのに話が通じるわけないと思うのだけれど」

「っ!! んだとこらぁあぁぁぁあ!」

腕まくりをして、今度こそ踏み切った。
この女、おれを野蛮だろか言いやがった。やっとゴミじゃなくなって、ゴミだとは思わなくなって来たのに。
それなのに、コイツはまたおれにそんなことを言いやがった。

そんなおれの頭を、レッドライアーがぶん殴った。
地面に顔面から突っ込んで鼻が変な音を立てる。すぐさま立ち上がってレッドライアーに噛み付こうとすると、そいつは冷たい目でおれを見た。
またやってしまった。
こんな反応をするならゴミだとか野蛮だとか言われても仕方がない。仕方がなくまた地面に正座する。
たらりと生暖かい液体が出てきたので、指で拭うと赤かった。
鼻血だ。
ふと、横からハンカチが差し出される。カンコだった。

「あ、ありがとう」

「そんなに熱くならないで」

気の無い返事をしながら、それを鼻に当てる。

恥ずかしい。こんな事で熱くなるなんて。おれの血が汚い証だ。最悪。
髪を見るともう色は変わっていなくて、いつもの深い緑だった。
rinに呼ばれたような気がして、体が熱くなった。
おれの血が引かれたんだ。

「レド、そんなこと言うな。この争いをしていたって、レドにもこいつにも利益は無い。話し合う価値はあるはずだ」

「どんな?」

おれは唇を噛みながら二人の話を聞く。
世界が離れているみたいで嫌だ。

みんなは、争いが終わったことが伝わったので、傷ついた者の治療や死体運びをやっている。
みんなの空気はもう落ち着いているので無駄な喧嘩は起こさないと思う。
後は、おれとコイツ。レドの反応次第。この話し合いに、おれの仲間の命がかかって居る。
おれがこれから、コイツ等をまとめることになる。親方の代わりに。
親方が死んだことで下がった士気を持ち上げたおれがリーダーになることに対して異議を唱える者は、居ない。多分。きっと。そう信じている。
そうじゃないなら離れるだけでいい。
親方の仲間たち。それをおれが引き継ぐ。
これからのことが不安だった。

「ようは、お前たちは麻薬の仕事を奪われたことが嫌で、お前らは麻薬を扱うコイツ等が気に食わないんだろ?」

俺の顔色を確認しながら言葉をつなぐレッドライアー。
それにおれは頷いた。
そう。それが問題なのだ。
頷くおれたちに、レッドライアーは笑った。

「じゃあ、お前らが騎士団の足になればいいじゃないか。それで仕事をもらって、レドたちはコイツ等を監視できる」

「はあああああ?」

「ぷっ、あは、あははははははは!!」

レドが腹を抱えて大地を転がりまくった。ぜんぜん面白くない。
レッドライアーは大口開けているおれを不思議そうに見る。

「どうする?」

「どうするじゃねぇよ!! 呑むわけねぇだろ!! そんな条件っ」

地団太を踏んでみる。勢いに任せて立ち上がる。
カンコが服の裾を引っ張って来たのでもう一度座った。
その間もずっとレドは笑っている。

「あははは、私は別にいいけどね! それは名案だよ!」

「だからおれらはそれを呑まないの!」

レドは大地に寝転んだまま顔を覆って笑う。そんなそいつにまた立ち上がりかけるけど堪えた。
そんな俺を見て、レッドライアーが最後の一突きを放つ。

「だって最後の状況からみると、お前らの方が劣勢だったろ? 仕方がない。お前らに拒否権はほぼない」

そんなことってあるのかよ。
心と体から力が抜けて、背中から大地にダイブする。

仕方がない、呑むしかない。それなら仕方がない。騎士団の配下になるなんて屈辱だけど、考えれば安定した仕事がもらえるし、それでいいかもしれない。
そんなことを思うと、自然と肺から空気が漏れた。

終わった、のか。
疲れた。
凄く、疲れた。
今は眠りたい。
早く夢に落ちて、親方に会いたい。会って話したい。

『俺はもう大丈夫だから。生きるから。最後まで生きてやるから。だから安心して、親父』


〜エンド〜


最後です。
五章は長かった……!!
取り敢えずお疲れ様です。
それでは六章ではあの問題を解決しに行きましょうか。