複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.252 )
日時: 2012/12/12 19:30
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
参照: http://id24.fm-p.jp/456/yayuua/



1・Only two persons' darkness.


頬を叩かれて目が覚めた。意識が一気に現実に引き戻されて軽い頭痛がする。
瞼が重いが、それをこする前に床に降ろされた。少々乱暴で尻が痛い。
暗い部屋だった。狭いわけでは無いが、闇に包まれているせいで冷たくて快適そうには見えない。窓も無いその部屋の唯一光が侵入できる場所。扉。
その扉の所でマリンブルーの男が仁王立ちしている。私を見下ろしてドアを閉めていった。

「待ってくださいっ!」

「嫌だ。じゃあ、大人しくしててね」

舌を小さく出して、無情にも扉を閉めるマリンブルー。
ようやく我に帰った時には、扉にはもう鍵がかけられていた。何度か叩いたり、体当たりをしてみたりするけどびくともしない。
私は諦めて床に腰を下ろした。膝を抱えて蹲る。

何てことだ。なんてことだ。これはどういう事態だ。なんで私がこんな目にあっているんだ。私はこんな事をされる覚えはない。全くない。マリンブルーの顔だって知らない。
寂しい。こんな真っ暗闇の中で、一人か。
一人。久しぶりの感覚だ。ずっと一人だった。弱くて、勇気がなくて。そんな私が変わった。
変わったのか。本当にそうなんだろうか。
いや、悩むな。変わっている。絶対変わっている。だって、変わろうと思っている。変わりたいってそう思っている。絶対。私は変わった。
まだ、みんなとの関係は深い物じゃ無い。だけど、もっとみんなと一緒に居たい。
もっと。
もっとレッドライアーと一緒に居たい。
変わることができそうなんだ。もっと強い人間になれそうなんだ。そうなんだ。
だから、私も頑張らないと。自分で動かないと。

立ち上がった。腰からナイフを抜いて、扉に突き立てる。だけど、木じゃないから刺さらない。ナイフがはじかれて音を立てて転がる。それを拾い上げてドアノブを突き刺す。ドアよりも弱いのか、傷が付いたみたいだ。
もう一回。意味は無いかもしれない。あきらめない。もう一回。
涙が出てきそうだ。また足手まといになっている。探してくれるかどうか分からない。
私なんて。
けど、聞きたいことがあるんだ。
ごめんなさいって謝らないと。なんで、私を連れて回ってくれているのか。それも聞かないと。凪にも合わないと。燕を応援してあげないと。クイーン・ノーベルにもお礼を言わないと。
レッドライアーが助けに来てくれるとか、そういう問題じゃない。私が動かないといけない。
私自身が頑張らないといけないんだ。

「……うるさいな、女」

後ろから声が掛けられた。驚いてナイフを手から落としてしまう。
それに構わずに振り返ると、闇に慣れた私の瞳が床に倒れている男の子を捉えた。
汚れた白い服。暗い髪の色。そして、鮮やかなエメラルドグリーンの瞳。
手足を縛られていて身動きができないらしい。私は急いでその人に駆け寄った。
一人じゃなかった。
それ以上の安心は無い。

「悪いが、俺の手足の縄、ほどいてくれないか」


〜つづく〜


一話目です。
はい、六章もお付き合いお願いします。