複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.253 )
- 日時: 2012/12/13 20:12
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
2・Sealed talk.
「それは、できません」
私が胸に手を当てながら言うと、男の子は信じられないと瞳を大きくした。だが、直後に元の大きさに戻って私を睨むように見る。私はそんな視線に臆さないようにしながら、男の子に近寄った。
彼を縛っている布のようなものは、特殊な物のようで一人の力ではちぎれそうにもない。可哀想だと思う。汚れているし、口の周りに乾いた血が付いているし。
だけど、できない。だって、初対面なのだから。ここで私が紐を解けばこの人は私に何をするのかわかったものじゃない。人は何時だって何を考えているのか分からない。私よりも年下であろう彼が、胸の中で何を考えているか分からない。私の敵かもしれない。人を疑うなんてしたくない。だけどするしかない。
私は死ぬわけにはいかないのだから。
「いいか。聞け。俺はパル・トリシタン。お前の考えは分かる。俺を信用できないんだろ。だけど、そんなことを言っている場合じゃない。ハッキリ言おう。このままじゃあ、世界が死ぬ」
彼のエメラルドグリーンの瞳は真剣そのもので、疑うことなんかしたくない。
けれど、私はいきなりそんなことを言われてしまって、頭が凍りついた。胸の中がひんやりと冷める。無意識に呼吸を静かにしていた。ただならぬ空気が部屋を支配するのを感じる。
私が黙っていると、パルという少年は姿勢を変えた。
ずっと寝転がっているのは辛いのだろう。
「レッドエイジ。多分、お前はこの話を知らないだろ。聞かされてないと思う。今は緊急事態だ。落ち付いて聞け」
レッドエイジ。またその話か。最近良く話題に上る話。私は確かに、その話を知らない。聴いたことがない。結局誰からもその話の詳細を聞かされては居ないから。
パルは何回か咳こんだ後、ゆっくりと口を開く。
「俺たちを連れ去ったのは、雷暝っていう男だ。コイツをお前が知るか知らないか、それはどうでもいい」
知っている。雷暝が私を呼んでいる。それも聞いた。
私は黙って聞いていた。聞く価値があると判断した。嘘じゃないと思う。ここで嘘をついても、パルには何も得は無いからだ。
「そいつは多分、レッドエイジをもう一度起こそうとしている」
話しはまだつながらない。整理できない。それと私が、何の関係があるというんだ。
私の背中の古傷が変な熱を持った。汗が出てきて、寒いはずなのに何故か蒸し暑く感じる。
「レッドエイジは人の命を奪う。そんな時代をもう一度起こそうとしているんだ。それができる」
レッドエイジは、そんなに恐ろしい時代なのか。私は唾を飲み込んだ。
エメラルドグリーンの光がまぶしく感じる。
私を強く見つめているパルは、とても頼りがいのある人間に見えた。
「俺と、お前なら」
〜つづく〜
二話目です。