複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.257 )
- 日時: 2012/12/17 15:00
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
6・Sadness which trusts a friend.
彼が私の名前を呼んだ。
レドモン。
その響きは柔らかくて、例えるなら、そう、春の太陽の光のような。そんな例えしかできない私。
レドモン。
何度も名前を呼ばれてきた。隊長にも後輩にも、あの日、何度も呼ばれた。呼びながら彼らは私を犯した。あの日から私は私じゃなくなった。私は私の正義を信じてはいる。だけど、正義を目指すことを見失って居たのかもしれない。
何かが変わってしまったんだ。あの日、私はレドモンではなくなった。
レドモンは私だ。
そんなことは分かっていたはずなのに。そんな事は当然のことのはずなのに。
私は逃げてきた。何度も逃げた。蹲った。立ち止まった。人を見下す事で自分を確立してきた。
そんな最低な私を、彼は優しく呼ぶ。
レドモン。レドモン。
私の中で、私の中の凍っていた何かが溶けた。ドロリと、解凍されていく何か。冷たかった何かが、春の日差しに溶かされる。
私は掴んでいた燕の頭を離した。
そっと、力がなくなったかのように。
私を振り返りながら、燕は駆けていく。
「ありがとうな、レドモン!! 絶対戻るから!!」
そんな彼の背中を私は眺めていた。眩しい彼は、きっと帰ってくるだろう。今そう、約束してくれたのだから。
手を振らなかったことを後悔しながら、私はそっと笑った。
終わったのかもしれない。だけど始まったのだろう。
私の正義は終わらない。終わってたまるか。
私はレドモン。
ダルトファルト騎士団三番隊隊長の、レドモン・アクロイド。
+ + + +
彼はいたって本気だろう。だけど信じることができない。私は怖いんだ。信じることが。
ここで彼の言うことを聞いて、真に受けて、それでパルが悪人だったら?
考えたくない。
動きを止める私に、パルは諦めたようにため息を吐いた。
「俺のことを信じることができないのは分かる。待っていれば俺の仲間が助けに来てくれる」
「……仲間?」
彼は嬉しそうに頷いた。私にも分かった。嬉しいんだ。何か楽しかった事を思い出している。けど切なそうだ。なぜか。なんでだろうか。
切なそうに笑うパル。
何だか誰かを思い出しそうで、止めた。
いやなことを思い出しそうだったから。
私の昔のこと。私が住んでいた村のこと。大好きな、お母さんとお父さんのこと。彼のこと。
「そう。仲間がいるんだよ。バカな子供みたいだけど純粋な奴と、厳しいけど本当は優しくて俺たちのこと一番に考えてくれる奴。それと、すごく温かくて俺たちを包んでくれる恩人」
うれしそうに話すパル。その話を聞いていると、私もほっこりしてきた。パルがいい人なのではと思えて来る。
私がじっとパルを見ていることに気が付いて、パルは頬を赤らめて咳ばらいをした。
そんなパルに笑ってしまう。いつの間にか口から出てきた話しなのだろう。
「パルさんは仲間が好きなんですね」
「……ん、まぁな」
〜つづく〜
六話目です。
レドモンがすくわれました。