複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.259 )
- 日時: 2013/01/27 11:52
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)
8・Isn't a pain shared?
「雪羽。とりあえず、ありがとう」
「……いえ、お互い様ですから」
自分を縛っていた縄を乱暴にポケットに入れて、パルは扉の前に立った。
そして、意識を集中させる。部屋の中の空気が震えるのを感じた。ピリピリとした雰囲気。
これほど精神を集中できるなんて、パルはただ者じゃない。
そして、パルは右手を振り上げて、扉に向って振り下ろした。直後、それに反応するようにドアが弾き飛んだ。小規模な爆発。
パルは自分の魔法に吹っ飛ばされた。
それに駆け寄ると、パルはすぐに体を起こして扉から廊下を睨んだ。
様子を確認して誰も周りに居ないことを確認すると、私を振り返って手招きをした。
私も出来るだけ息をひそめて、壊れて散らばった扉を飛び越えて廊下に出る。
薄暗い電球が廊下を不気味に照らしている。ずっと先が見えないくらいに伸びている廊下を眺めて、ため息を吐きそうになる。
しばらくパルの後をついて行って、振り返る。
ドアは半壊状態だった。小柄なパルと女の私だから通れたのだろう。
「パルさん、魔法が使えるんですね」
自分よりも小さなパルが魔法を使う姿が信じられなかった。
パルは私に背中を向けながら、辺りを意識している。足音を立てないようにしながら奥に進んでいく。
「あぁ。今のは岩花火。炎魔の魔法の初歩だな」
私が魔法について全然知らないということを知っているのか、パルは情報を付け加えて説明してくれた。
岩花火と言えば、飛行船を思い出す。ロムの魔術で私たちは転落する羽目になったのだ。
それ以来ライアーとはまともな会話をしていない。もっとじっくり話したいこともある。
それなのに、立て続けにいろんなことが起きてしまっている。
私はあの日の飛行船のことを思い出して、唇を噛んだ。
それにパルは気付いていない。
「すごい、です。私も魔術が使えたら、」
そこで口を閉じた。
魔術をつかえたって、その才能があったって、それを使うタイミングとか、それに必要な道具とかを全部頭で理解していないといけないんだ。それなのに、私は魔術が簡単だとでも言いたげじゃないか。
私は申し訳なくなってしまった。
黙った私にパルは振り返る。パルのライトグリーンの瞳は、なぜか切なげに揺れている。
「……魔術をつかえても、守れないものは守れない」
パルはそういうと、前を向いた。そのくらい黒色の髪を眺めていても、パルが考えていることは分からない。
パルは守りたかったものがあったんだろうな。それは分かったけど。パルは、強いのに。あんなに人をまっすぐに見ることができるのに。
それでも守れないものがあったんだ。
私はジャージの裾をぎゅっと握った。
パルの悲しみが伝わってきたような気がする。
自分が何かできない悲しみやもどかしさ、自分への怒りや自己嫌悪の感情は、私は良く知っているつもりだった。
〜つづく〜
八話目です。