複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.260 )
- 日時: 2012/12/20 15:24
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
9・I will begin show.
当てがあるわけではなかった。誰があの赤女を連れて行ったのかは知らなかった。だからどこへ行けばいいのかわからない。
だけど、行かなくちゃいけない。そんなことは分かっているんだ。分かっている。
進みたい。なのに勧めない。もどかしい。
ジャルドとカンコは俺に協力してくれるらしい。あんなに酷いことがあったのに、二人はしっかりしている。離れていた時の不安はもうないらしい。やっぱりこの二人は強かった。
俺とは全然違う。赤女は俺と同じく弱い。弱いから、俺が守ってやらなくちゃいけなかった。それなのに、俺はあいつを一人にしてしまっている。
そうか。アイツが一人なら、俺も一人だ。
寂しいのは、赤女じゃない。俺の方なのかもしれない。
燕も協力してくれるっていうのは意外だった。コイツが力になってくれるのは心強い。
もしかしたらいろんな人と戦わなくちゃいけなくなるかもしれないから。
アイツが何で連れ去られるのかは分からない。だけどこっちには返して貰う理由がある。
アイツの黒髪と黒目が欲しい。助けに行かないと。アイツと話さなくちゃいけない事がある。
これからのこと。俺が欲しい物の話。
アイツに赤い物を与えてやろう。俺は赤色が大っ嫌いだけど、アイツが好きなら与えてやる。
だから黒だけは。あの美しい黒だけはどうしても俺に譲ってほしい。
心当たりは無い。
アスラという考えも浮かんだ。しかしそれは無いと思った。なんでか、アイツはこんなことはしないと思ったからだ。
直接手を下しに来るだろう。アイツはそういう奴だ。
アスラは元気だろうか。
「…………」
心を落ち着かせるために考え事をしている俺の前に、黒い影があることに気付いた。
思わず、ジャルドとカンコの体が硬直する。しかしジャルドはすぐにカンコをかばう姿勢になり、凍った空気を感じて燕も体に力を入れた。
そんな空気の中で、目の前の黒いフードを深くかぶったヒダリは、赤い目で俺を見ながら右手を差し出した。掌を向けると、その中に緑色の小さな石があることに気付く。
何をするつもりかわからない。
俺はヒダリを睨みつける。カンコも、ジャルドも。燕に至っては唸りだしそうな勢いだ。
ヒダリは動じない。声も出さない。顔色も変えない。
無気味なくらい、『静』。
「何の用だよ」
俺に用があったことは知っていた。ロムの姿は見えない。近くにいるかもしれないので、油断はしない。おしゃべりなロムが居ないと、ヒダリの意思をくみ取る事は難しい。
ヒダリの手の中の石が、緑色の光を宿した。ぼんやりとした光が、空に伸びる。
攻撃か。魔術なのか。分からない。詠唱をせずに魔術を発動できる能力がヒダリにあるなら、それは注意するべきだ。
相当な力が必要なのだ。詠唱をしないで魔術を発動すると、アンダープラネットに精神を持って行かれる可能性が強まる。
細長い光が、扇形に広がる。
その中に、映像が浮かび上がった。
それに全員が注目する。
「雷暝……っ!」
〜つづく〜
九話目です。