複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.262 )
- 日時: 2012/12/22 12:47
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
11・Sweet temptation.
「こんにちは」
パルが連れ去られた。
そんな一大事の報告からアシュリーから聞いて、再会を喜ぶまもなく絶望に叩き落された。
誰に連れ去られたのかわからないらしいが、それがもしアスタリスクの手先だったら。
それだったら大変だ。またあの絶望の逆戻りなんて嫌だ。そんなのは許さない。パルが苦しんでいるのなら、俺だってアスタリスクのもとに戻る。
そして、俺が身代わりになってやる。アシュリーにそのことを言ったら、そんなのはだめだって言ってくれた。
それなら私が身代わりになる。
それは俺が許さない。
二人がなるなら俺がってムーヴィが言ってくれて。
そんな会話をしていても仕方が無いから、助けに行くってことになった。
アスタリスクと戦うことになったら勝ち目なんてないかもしれない。それでも助けたかった。
そして、俺は嬉しかった。こうやって、お互いに助け合って支え合って、愛してくれる人が居て。そんな環境なんだなって改めて実感してうれしくなった。
だから早く、この暖かい場所にパルを連れ戻さないといけない。
他の場所は寒いから。
パルに何かあったら大変だ。
歩き出した俺たちの目の前に現れたのは、山吹色の髪をした女の子だった。
俺より少し年上に見える大人っぽい顔立ち。それが栗色の瞳のせいだとわかるのにはさほど時間はかからなかった。
冷たくて、強くて厳しい雰囲気を漂わせている瞳のせい。
俺は別に何も反応しなかったけど、とっさにムーヴィがアシュリーを庇うような位置に動いたのを感じて、少しだけ体に力を入れた。
ムーヴィには悪いけど、この子を疑う事はできない。害はなさそうだ。
女の子は、右手を俺たちに向けて来た。
そして、握っていた拳を開く。
その中には緑色の石が入って居た。見たことのない石。
俺はそれにくぎ付けになったけど、ムーヴィは相変わらず警戒しているから女の子に近寄ったりはしなかった。
突然、女の子の手の中の石が緑色の光を発した。空に向かって伸びて、光は扇形に広がる。
その中に映像が流れた。
流石のムーヴィもそれには驚いたみたいだ。
映像の中には、真っ黒の髪の毛で前髪で左目を隠した赤い瞳の男が映っていた。年は分からない。
だけどやけに嫌な感じがすることに気付く。
コイツは、なんだか好きじゃない。
映像の中で、男が笑う。
『よぉ。カーネイジ・マーマン、欠員一名』
カーネイジ・マーマン。俺たちの集団の名前だ。誰かが勝手につけたらしい名前。
俺たちはその名前が好きじゃ無かった。確かに普通じゃないけど、そんな名前を付けて差別するほど俺たちは異端じゃない。
世の中の人間たちはそうは思っていないのかもしれない。けど、俺たちの問題を他人が決めつけるなんて許せなかった。
俺は一歩下がった。
『そんなに警戒するなよ。ワタシは交渉をしに来たんだ』
「……交渉?」
大地を揺らすような怒気を含んだ声を出したのは、警戒心丸出しのムーヴィだ。
俺も男を睨みつける。
『そう。ゲームをしないか。勝利の景品は、パル・トリシタン』
〜つづく〜
十一話目です。