複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.266 )
- 日時: 2012/12/27 11:27
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
15・A cooperation game, reunion.
吹っ飛ばされて地面に転がる。
腹から込上げるものを口からだらしなく吐き出す私を、ヒダリは眺めていた。何も考えていないような瞳で。
それでいい。私のことなんか気にしないでいいのだ。ただそれだけでいいのだ。冷たくあれ。
ヒダリは人間の感情という概念をすべてそぎ落とした最強の生き物だ。人間なわけがない。
私がヒダリを庇ったのは、ヒダリのためではなく自分のためだ。
自分の最高の道具が壊れるのを防いだだけ。
左腕はもう使えない。
多分レジルでも治せない。血が止まらない。黄色い脂肪を通り越して骨さえ見えそうだ。私の血が草原を染めていく。
痙攣する右手で指を動かす。
草をたたく。汗がひどい。
口から流れ出す吐瀉物が止まらない。
こんな姿、絶対にソウガには見せられない。
生き残れ。私は生き残る。
そのために今まで勝ってきた。
全部全部、雷暝様の側に居るため。私はそのために生きて行くんだ。
これからも負けない。ずっと勝ち続けて、生き続ける。私はこんなところで死ぬわけには行かない。
アスラが近づいてくる。
速いこの男。そして、何も考えずに動くヒダリ。どっちが強いか、分からない。
分からないが、やるしかない。
私は大きく指をはじく。ヒダリが動く。アスラは反応できていない。
勝った。
ヒダリが私の体を抱え上げる。
乱暴なその手段に左肩の感覚は持っていかれた。
だが。逃げる事に成功した。
アスラ。この脅威をすぐに伝えに行かないといけない。
もうすぐゲームが始まる。
雷暝様の大好きなゲームが。
さて、今回のゲームはきっと大きなゲームだから。だから、何人負けるかわからない。何人生き残れるか、分からない。
私ももしかしたら、このゲームで負けて、死ぬかもしれない。
私はそう考えながら、雷鳴様のもとへと走るヒダリの顔を見上げた。
+ + + +
逃げられた。
俺は地面を蹴った。
女の吐瀉物と血液だけがその場に残される。どんどんと離れていくフード男の背中を眺めていると、虚しくなってくる。
アイツも速いじゃ無いか。
こうしては居られない。こんなことで悔しがっている暇は無い。
俺が歩き出そうとすると、後ろに気配を感じた。
後ろに、人間。
振り返ると、いつかの赤髪といつかの用心棒の男と少女と、見たことのない少年が立っていた。
赤髪は俺を見つけると目を丸くした。
そして、俺の腹を見て駆け寄ってくる。
「アスラ、何してんだよ」
腹の傷を俺はようやく覆った。掌に生暖かい液体が付く。
どうやら結構深いようだ。
「……お前たちと、多分一緒のことをしている」
〜つづく〜
十五話目です。
きっと今回も長いですね。