複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。参照100が嬉しすぎて腕がおれた ( No.27 )
- 日時: 2012/05/10 21:19
- 名前: 揶揄菟唖 (ID: yZ7ICI8F)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_test/view.html?526461
14・黒、戸惑う。
しかしどうもこの時期の気温は低い。
この列車は超高級なので暖房が設置されているがそれは部屋だけなので、トイレでも行こうかと一歩でも廊下に出れば、一気に寒くなり気温の変化でだらしなくくしゃみをしてしまう。
だから私はもうあの街に着くまで部屋を出ないことにした。
窓を開けて、どのくらいまで近づいたかを確認したいところだが、この気温で窓を開けるなんて行為ができるほど、私は勇者じゃない。
かと言って3時間もの長時間部屋で、何にもしないなんて暇すぎてあくびが出る。
眠くなるが寝ない。
その間に町についてしまったら困る。
別に困るって程重大な問題ではないが、人生初の都会入りをリアルタイムで体験したいのだ。コレだけは譲れない。
暇だなぁ。
やれることは全てやった。
爪にマニキュアは塗ったし、歯磨きもさっき凍えながらやたら豪華な洗面台でやってきたし、その時に顔も洗い、髪も整えた。
髪ならいつでもとかせるからベッドに仰向きに倒れてみた。
ふかふかしたベッドも美味しいご飯も人生初体験だ。
本当に私の人生ばら色だ。私の好きな赤色だ。
暇つぶしに足をバタバタやってみるとホコリがまった。
それにしても、暇だ。
どうにか暇つぶしはないものかと仕方ないから廊下へ出る。
当然貸切だから誰もいない廊下を一人で震える身体をさすりながら進む。
すすんでいるとやっぱり突き当たりに来るわけだから、必然的に食堂に着いた。
今は食事の時間ではないが、気分転換にはなると思い、食堂に入る。
よかった、ここも暖房は効いているみたいだ。
そして今朝ライアーが座っていた席に腰掛けた。
テーブルの上に頬杖をつく。
一定間隔で聞こえる列車が線路の段差をこえる音に、耳をすませながら目を閉じる。
あぁ、落ち着く。
こういう静かな時間も人間には必要だろう。
心を落ち着かせる。
今なら気分的に歌を歌えそうな気がしてきた。
いっちょ歌うか。
心に決めて目を閉じたまま息を吸う。
そして私は適当に選んだ曲を歌いだした。
+ + + +
どうせ暇ができるだろうと思い、持ってきた本を、読み終えてしまった。
コレで完全に俺は暇だ。
結構面白く、文体が俺向きだったのか知らないがこんなに早く読み終えるとは、予想していなかった。
どうするかな。
生憎俺は本以外の暇つぶしを持ってこなかった。
だって今まで一人でずっと来たわけだし、逆に本以外の暇つぶしって何だ、教えてくれ。
トランプか?
俺があの女と?
ふざけるな。
そんな仲良くなるつもりは毛頭ない。
愛用しているしおりを本から抜き取ってポケットに入れる。
仕方ないから何かコーヒーでも貰おうと食堂に向かうために、ベッドの横のサイドテーブルに本を置き、コートを羽織った。
もったいないだろうから暖房を切っておく。
案の定外は寒くてティーシャツ一枚で来なくて良かったと思った。
いつからこんなに冷え込んだんだ。
あの町は今冬なのだろうか。
あまり調べていないからそこのところは不明だ。
俺の部屋は赤女より食堂に近いから少し歩けばすぐに食堂に着く。
スライド式のドアを開けようとドアノブに手をかけようとした時だった。
「————?」
歌だ。
歌が、聞こえる。
どこからだといえば食堂からだ。
少しだけ漏れて聞こえる、歌声。
ゆっくりとしたテンポだが聞いていて飽きないような、メロディーと小さいがはっきり聞こえる、歌詞。
切ない恋の唄の様だ。
俺以外にこの列車に乗っている奴は、1人しかいない。
が。
本当にあの女の声なのか、疑う。
そりゃあ時々あの女の物だと分かるような時が来るが、全てが全てでは無い。
あの女が?
この歌を?
あのバカで、アホで、使えない女が?
「…………」
しばらく、そのままの状態で静止して歌を聴いていたが、聞いている自分が恥ずかしくなってその場を離れる。
畜生。
どうしてあんな奴に、俺のペースを乱されなくちゃいけないんだ。
+ + + +
歌を5、6曲歌い終わった後、列車がゆっくりと減速してきた。
びっくりして瞼を開けて、席から立って食堂を飛び出した。
一番近くにあるライアーの部屋をノックした。
我ながら、凄い勢いだと思う。
「ライアーさん! ライアーさん!」
思いっきりドアを叩きながら叫ぶと、ドアが開いた。
その間にも列車はどんどん減速している。
「……なんだ」
いつにも増して不機嫌そうな声で、私の方を向かずに答えるライアー。
何かあったようだが、今はそんなの大事じゃない。
基本無視だ。
私は私のことを優先する。
間違ってない。
「もうすぐですか!?」
今の私の目はきっとキラキラしているだろう。
希望に満ちているだろう。
ライアーはそんな私をちらりと見てから減速している列車に、気付いたようだ。
「……そうだな」
嫌な雰囲気が流れているライアーを置いて、私は駆け出した。
よっしゃ、後少しなんだ。
私の部屋に飛び込んで荷物を確認する。
包帯よし、傷薬よし、ナイフよし、水筒よし、コンパスよし、ハンカチよし、お財布よし。
さっきコックさんに貰った食糧、お菓子よし。
こっちは準備万端だ。
足りない物があったら街でライアーに買ってもらおう。
手袋を手に装着し、荷物が入ったリュックサックを背負う。
肩掛けよりこっちのほうがずれなくて良い。
私が愛用している物だ。
もちろん、赤。
息を短く吐き出したとき、列車が止まった。
もう既に窓の外の景色は変わっていた。
どうやら駅のホームのようだ。
私たちが乗っている列車は外見も美しく、きらびやかだがそんな列車も珍しくないのか駅のホームを行きかう人々はこちらをじろじろなんて見ていない。
すごいなぁ。
私だったらこんな列車が止まっていたらじろじろ見てしまう。
これが、都会の空気、雰囲気。
私は感動して窓に顔を押し付けていた。
それが列車より珍しいのかこちらを見る人が増えた。
確かに、こんな列車に乗っている人はもっと堂々としているだろう。
だが私は初心者の貧乏ハンターだからこんな状態になったってしょうがない。許してくれ。
「何やってんだ、行くぞ」
いつの間にか私の部屋に入ってきていたライアーが、私のジャージの首元を掴んだ。
この人はもう少し、遠慮を覚えた方が良いと思う。
仮にも私は女の子なんだから。
というかその前に誰の部屋にも入る前はノックをすべきだ。
なんて、面と向かっていえるはずがないけど。
遂にやってきた。
人生初の、夢にまで見た、都会が。
〜つづく〜
十四話目です。
あれ。また予告どおりに行かなかった…。
守れないのでこれから次回予告は発表しないようにします。