複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.270 )
日時: 2013/01/27 11:59
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)


17・A happy dream breaks in when.


「ふっざけやがって」

俺は地面を思い切り蹴り上げた。
そんな俺を、上は青くて下は赤い瞳を向けている銀。銀の表情は恐ろしいくらいに固まっていて、そして、冷たかった。驚くくらいに。
俺はそれが怖かった。銀に出会った当初を思い出したのだ。
銀は、最初人形のようだった。何も考えていない、何の感情もない人形。
それが今はこんなに落ち着いていろんな表情を見せて、いろんな感情を持っている。
俺はそんな銀が嫌いだったから。アスタリスクの手に落ちた俺を見ているみたいで、そんな銀を見るのが嫌だった。
だけど、そんな銀に向き合ってくれたアシュリーが居た。
決して綺麗では無かった銀を洗ったのはアシュリーだ。
アシュリーは俺のように、銀を自分の姿と重ねたりはしなかったんだろうか。俺のように、鏡を見ているような気分にならなかったんだろうか。アスタリスクを思い出さなかったんだろうか。
いや。きっと。
きっと、アシュリーだって思い出したはずなんだ。
それでも、銀から目をそむけなかった。そして、俺から目を逸らさなかった。
俺の心を目覚めさせてくれた。
俺は俺が大嫌いだ。こんな汚い見た目をしている俺が嫌いだった。本人だって吐き気を催すくらいなこの外見を、アシュリーはまっすぐな目で見てくれた。
俺はそれが嬉しかった。嬉しかった。この嬉しいという感情を絶対に忘れたくなかった。
だからこの居場所を守ろうと思った。自分が生きるために。生きる伸びるために。
だけどいつの間にか、俺は俺の居場所じゃなくて、みんなの居場所を守りたいって思うようになっていたんだ。
俺の大切な物はいつの間にかすり替わっていたんだ。
俺の大切な物は、俺の居場所じゃ無い。みんなだ。みんなが笑って居るならそれでいい。
だから、アイツが許せなかった。
あんな、俺たちを試すようなこと。俺は、俺たちはもう試される立場じゃない。
俺たちはもう自由なはずなんだ。こんな目に会わないはずだった。
それなのに。

拳をぎゅっと握る。唇を噛む。
そんな俺の腰を叩いてくれたのは、ほんのりと笑顔を浮かべるアシュリーだった。
再会を喜ぶ暇なんてなかった。アシュリーの顔を見た途端、俺の心が落ち着いた。
すごい。本当に、アシュリーはすごい。アシュリーが居てくれるなら俺はきっと正常でいることができる。
そうに違いない。

「大丈夫。勝てばいいんだ。アイツの言う、ゲームに。みんなでパルを救い出そう」

そういってから、アシュリーの表情が曇った。それが不安で、アシュリーの薄い肩をつかんでしまう。
銀も不思議そうにアシュリーを見る。
そして、アシュリーはまっすぐな視線で俺と銀に視線を配る。

「ごめん。私のせいだ。私がしっかりしていたなら、パルは連れて行かれなかった」

俺は言葉に詰まってしまった。アシュリーのせいなわけがない。
俺たちは何時だってアシュリーに救われてきたんだから。

「んなわけない!! 俺たちが何とかする!! 絶対! 俺たちはもう迷わないから!!」

銀の言葉にうなずきながら、俺は二人を抱きしめた。
そうだ。そうだな。
俺たちが何とかする。絶対に何とかしてみせる。
俺たちは不幸なんかじゃない。


〜つづく〜


十七話目です。
動き出します。
きっと。