複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.273 )
日時: 2013/01/27 12:02
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)


20・Even the friend in me cannot love.


頭が徐々に熱を持ち始めた。
白濁の中に落とされていた意識が引っ張られて頭が冴えていく。
冷たくなっていた指先に覚醒するように、神経が通る。
この感覚を経験するのはこれが初めてじゃない。だから、自分がどんな状況に経っているのかは容易に理解できている。
つまり、俺は今、俺じゃなかったと言うことだ。

俺の目の前に広がったのは、誰もいない廊下だった。俺はその床に倒れていた。
なんでこんな状況に経っているのかを尋ねようとしたが、もう尋ねられないくらいに深くまで沈んでしまっている。
俺はそれに舌打ちをして、白衣を払いながら立ち上がる。
廊下を見渡してみると、ここはパルと女を収容している部屋から延びる一本道の廊下だった。
思い出した。俺は確か、女の拘束具をつけなくちゃいけなかったんだ。
そこで、頭の裏がピリッと痛んだ。いやな予感だ。
俺は走り出した。誰もいない廊下に俺の足音だけが響く。俺はそれにも気を配らなかった。
俺が走っていくと焦げ臭いにおいが漂ってきた。眉をゆがめて、大きくなって来た扉を見据える。

岩花火だ。俺は咄嗟に炎魔の初級魔法を思い出した。

俺はすぐに踵を返しながら、携帯電話を取り出してあの男に掛けた。
俺のお願いなら大体は聞いてくれる男。
それよりも、俺があそこに倒れていたことが気がかりだ。なんで、俺はあそこにいたんだ。
もしかして、衝突したんじゃないだろうか。
まさか。そうじゃないと信じたい。

「ソウガ、逃げられた! ごめん! 俺は雷暝様に連絡するから、お前は捜索を頼む!」

『OKOK。任せといて、レジルちゃん』

俺はその声を耳に残して携帯電話を閉じた。

ロムに対して、いつも悪い気分になる。
ソウガにお願いごとをすることは決して少なくない。だからだった。
ソウガは男のお願いしか聞かない。耳を貸さない。だから、俺は何時もロムに情けなくなって来る。
ロムは強い。いや、強いふりをしている。ヒダリが居なくてもなんでも出来るんじゃないかってくらいに振る舞って、女だってことを忘れさせるくらい良く動くし、めげない。
だから、ソウガもロムを見てやってもいいんじゃないだろうか。
いつもそう思うけど、結局俺は何も言わないのだ。俺が何かを言ったところで、ソウガはちゃんと聞いてくれないだろうから。
俺の話でも、真剣に聞いてくれたことは無い。
ソウガは何時だってするりと真剣な話を避ける。
そこが恐ろしく、頼もしい。

「雷暝様! ごめんなさい、二人を逃がしました!」

雷暝様の部屋に入ると、ガーディアンを殴りつけている雷暝様の姿が飛び込んできた。
俺は下唇をかんで、ガーディアンから視線を外す。

俺たちは、仲間であり敵だ。
だって、いつだれが死ぬかわからない。そんな状況の中で、誰かと親しくなることが恐ろしい。
そう思っているのは、俺だけなのかもしれないけれど。


〜つづく〜


二十話目です。
今思うと二章はこれで終わってたんですね。
何と短い。