複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.284 )
日時: 2013/01/18 18:32
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



31・The mouth which repeats a joke.


自分に拍手を送りたかった。
唇が震えていない。声も震えていない。足も震えていない。言いたいことをちゃんと言えた。ハッキリ言えた。

雷暝は楽しそうにして、私の肩を掴んできた。
ちなみにこのドレスは肩を出してあるデザインで結構露出度が高い物だった。私よりも、お姉さんの方が似合うんじゃないだろうか。

ちゃんと目を見返して答えを待つ。
雷暝の手がだんだんと上に上がり、そして首を撫で、顎を掴んだ。
持ち上げられた顎を触る指は冷たかった。

「パルが鍵なら、お前は扉といったところだ」

パル。そういえば、パルはどこだ。
私は唇を噛み締めた。
ここに居ないのなら、一体どこにいるというのだろうか。
パルは私を導いてくれた。
パルが居なかったなら私は一人で暗い場所にずっといる羽目になったのだろうから。
一人じゃないってすごく安心する。人と行動することが怖かった。でも今はそんなことは無いから大丈夫だ。一人がいるのがあんなに寂しい物だってわかった以上、もう一人では居たくないと思えている。

私の表情を見て雷暝が目を細めた。
言葉の意味が良くわからない。
パルが鍵で、私が扉?
私は普通の下っ端ハンターでしかない。私は小さな村で生まれて、そして今まで普通に生きてきた。
それだけのことなのに。いきなりそんなことを言われても困るだけだ。

「意味が分からないです」

私は眉間に皺を寄せてやった。
あえて顎の手は払わないでおくと、雷暝の指に力が入った。痛くない程度だが、少しだけ苦しかった。

「そうだろうな。お前は何も知らないでいい。ただワタシのためにここにいろ」

「何を言っているんですか? 私は帰らないといけないんです」

私はいよいよ彼の指を払いそうになる。でも堪えた。何だか子供っぽいから。
雷暝は怖いけれど、怯えてはいられないのだ。
すると雷暝は自分で顎から手を離して肩に手を戻す。

一瞬だった。
背中に衝撃を感じた。少しバウンドしたので反射で目を瞑ってしまうが、すぐに開く。
するとベッドの天蓋と雷暝が見えた。
ベッドに押し倒されたらしい。
私は別にそれで動揺なんかしなかった。社長の時と同じように、少しだけ驚いてはいるが。雷暝が私にそういうことをしてくるとは思わなかった。
落ち付いている様子の私に雷暝は不思議そうにしたが、でも肩に両手を掛けたまま笑顔を保っている。

「お前は分かっていない。お前はお前の価値に気付くべきだ」

「私が私の価値に気付いてないっていうんですか? なら雷暝さんは私の価値を知っているっていうんですか?」

私は私のことを押し倒している雷暝を冷静な瞳で見上げる。
いくら私の好きな赤色で部屋を作ってくれても的なのには変わらない。私を連れ去った理由をまともに返してくれない人間なのには全く変わらない。
私は一切の油断も動揺もしないようにたまった空気を肺に溜める。

「ならどうだって?」

「……ふざけないでください」


〜つづく〜


三十一話目です。
赤い色は人を興奮させるって聞いたことがあるんですが、本当なんですかね?