複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.286 )
日時: 2013/01/20 12:33
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



33・You who do not know your power.


「っ最低ですっ……!」

私はようやく抵抗を始めた。掴まれている手首に力を込めて振り払おうとするが、力の差がありすぎてそれは叶うはずもなかった。
雷暝はいきなり私が抵抗を始めたのに一瞬驚いたようだったが、すぐにまたあの嫌な笑顔に変わった。
やっぱり私はこの人が嫌いだ。私は精一杯雷暝を睨みつけた。

「最低? いや違う。ワタシは世界を変えようとしているだけだ」

私は唾を吐きそうになった。本当にしてやろうかと思った。
何を言って居るんだコイツは。バカか。私以上にバカか。
私が嫌そうな顔をしてもこいつは動揺しない。どうやったらコイツをぎゃふんと言わせることができるだろうか。

私を助けるために、ライアーが傷つくなんて。
じんわりと体が覚めていくのを感じる。
そんなことはいけない。させたくない。
できるなら助けに来てほしいけれど、ライアーが傷つくのなら私のことは放っておいてほしい。
そんな度胸は無いが、もしも本当に最悪な状態になったらいつでも舌を噛み切ってやる。そんな状態になった時に私にその勇気があればの話だけれど。
私はでもライアーに傷ついてほしくない。私のためにだなんて。

「世界は、変えられません。少なくとも、私では変えることはできないです」

私ははっきりと言ってやった。
私の価値は私が決めている。雷暝に決められたくはない。
だから言ってやった。雷暝は本当に楽しそうな顔を崩さない。
私はまだ自分がここに居る意味も分かって居ないというのに。

足を動かして雷暝の腹辺りをリボンの巻きついた素足で押してやった。だが雷暝は片手で私の足をなぞり、スリットの間から手を入れて太ももを撫でてきた。
思わず顔が仰け反り、雷暝の顔を直視できずに顔を逸らしてしまう。

「……ライアーは必ずお前を助けに来る」

「なんで、わかるんですか」

「お前よりも一緒に居た時間が長いからな」

雷暝はそういって私から離れた。ベッドから立ち上がり、私に手を伸ばしてきたが私はその助けを無視して自力で立ち上がった。
雷暝はそれ以上何も言わずに部屋から出て行った。ずっと笑っていた。
緊張していた空気が一気に緩み、私はベッドに倒れこんだ。

なぜか泣きそうになった。大好きな赤色に囲われて幸せなはずなのに、最後に言われた言葉が心に突き刺さったような気がする。
一緒に居た時間。確かに私はまだライアーと知り合って間もないかもしれない。力にも慣れていないかもしれない。
それでも突き放さないライアーの優しさに甘えていたのかもしれない。

私は泣きそうになる自分の顔を叩いて体を起こした。こんなことはしていられない。監視が居ないのだ。さっさと出てしまおう。
そろりとドアに近づいてドアノブをつかもうとした時、それが回ってしまった。
ドアノブまで赤色になっていることに異様さを感じるが、それよりもドアが開いてしまったことに絶望を感じた。
雷暝かもしれない。恐る恐る顔を上げると、白衣を着た白髪の男が立っていた。

「……あ」


〜つづく〜


三十三話目です。
おっさんに目覚めてきているのでおっさんを出したくなりましたが、これ以上キャラが増えるとまじで終わらない気がするのでやめます。多分。