複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.287 )
日時: 2013/01/23 17:58
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)


34・I do not surely help you.


あの時、廊下で会った人。
白髪に何色ものヘアピンをつけて、パルものとは少し暗い緑色の瞳をしたそいつ。私が声を上げたのを見てすごく驚いたようだけれど、片手で私の胸の辺りを押して一歩下がらせそして後ろ手にドアを閉めた。
私は何となく身構えてしまった。そんな私に白髪の男は面倒そうに笑い、そして勝手にベッドに腰掛けた。
ベッドが軋んで、白衣の白がよく映えている。

「あ、あの……」

私は恐る恐る声を掛けてみると、白衣の男は軽く首を傾げてきた。
少し男性にしては大きな瞳だが、緑の色が暗いために光はあまり反射しない。
どこか感情が読みづらい所はここに居るみんな似ている。
雷暝も、あのマリンブルーも。
誰も何も考えていないようできっと多くのことを考えているのだろう。

私はなんて言葉を続けていいかわからずに口を閉じてしまう。
そんな私の様子を見て、白衣の男は自分の隣を軽く叩いて見せた。意味が分からずに硬直していると、白衣の男が私の腰をつかんで引き寄せた。
私はバランスを崩して白衣の男の隣に座ってしまった。

「なぁ、そんなに固くならないでよ。俺はレジル」

レジル。彼はそういいながら、私の頭を軽く撫でてくれた。私はそんなことでさえ固くなってしまう。
でも、動くことはしなかった。
何だか、レジルの隣は落ち着く。

「私は、雪羽っていいます。……私は、なんでここに居なくちゃいけないんでしょう?」

思わず弱音を吐いてしまった。
自分の足元に視線を落とす。すると足のリボンが乱れていた。私の視線を追って気づいたのか、レジルはベッドから腰を上げ私の足元に跪いて私の足のリボンを整える。
脛の辺りまで巻きつけて、蝶々にして結ぶ。

「それは……雷暝様の意思だよ。雷暝様の目的は俺たちの目的だから、俺は言っておくけど君の味方じゃないよ」

真剣な瞳で私を見上げるレジルの緑色の瞳からは、雷暝への忠誠心が露わになっているような気がした。
静かな熱。
私はその瞳を見ていてなんだかすごく切なくなってくる。
この人は、自分の望みを知っているんだろうか。本当の自分を知っているんだろうか。自分の力を解放した時の快感を知っているんだろうか。

私はその瞳から視線を逸らした。
レジルが立ち上がり、先ほどまで座っていた位置に戻った。
ベッドが軋む。
私は膝の上で拳を作った。

「……じゃあ、絶対に逃げ出しますから」

私が言い切ると、隣でレジルが私の肩を叩いてきた。
わずかに私の体が震えているのを知っていたのかもしれない。

「そうだね。じゃあ、君の仲間が雷暝様のおもちゃになるまでに逃げ出さないとな」


〜つづく〜


三十四話目です。
踵が痛い。