複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.290 )
日時: 2013/01/26 12:58
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



37・Selection as an enemy.


ロムが恐る恐るといったようにマリンブルーに注意をすると、マリンブルーは面白くなさそうに顔をしかめたが、すぐに俺の胸ぐらから手を放した。
そして俺をロムの前まで歩かせる。後ろから耳に口を近づけて、怒りを押し殺したような声を出した。

「ねぇ、そんな強がっていられるのも今のうちだからね。俺たちは負けない。負けなかったから、こうしてここに居るんだから」

だけど俺は全く怖くなかった。
銀が負ける訳がない。俺のことをあきらめる訳がない。そんな確信があった。
俺はみんなに愛されている自信がある。そうやって今の自分を何とか支えているのかもしれないけれど、今は怖いくらいに自信であふれていた。
銀たちは負けない。俺のために負けない。自分自身のために負けない。だから俺は怖くない。
絶対に俺たちは幸せになる。アスタリスクの思い通りになんかならない。
もしかしたら俺たちにはもう幸せになる権利なんか無いのかもしれない。でもそんなことは関係ない。
俺たちは自分たちでその権利を取りに行く。できないのなら権利なんかいらない。
権利なんかなくたって俺たちは幸せになってやるんだ。

「そうかよ。そんなことどうでもいいから拘束を解けよ」

このままじゃあ魔術が使えない。そのことをアピールするようにロムに目線を送ると、ロムがソウガに頷いた。
ソウガが俺の腕を縛っている布を取った。俺は手首をさすり、ロムの方に意識を集中させる。
左肩が原形を留めていない。応急処置として包帯はまかれているがほとんど効果は無いだろう。俺はその包帯を引きちぎるように投げ捨てる。
いったい、どんな攻撃を受ければこんな傷を負うんだ。
これだけの傷を負わせることができるような攻撃を繰り出す人物。
背筋に嫌な汗をかくのを感じた。
俺たちの味方にそいつが付いてくれればいい。単にロムが弱いわけじゃない。そう思うのに。

「……あんまりじょうずじゃないから、熱いかもしれない」

一応そんな注意をしてから、魔術を発動させる。
やはり熱が発生したのかロムが渋い顔をするのを見ながら治療を続けた。


 + + + +


妙な感覚だった。
前を歩くライアー、長い髪を揺らすカンコ、だらしない様子のジャルド、そして俺を振り返って様子をうかがって居る燕。その視線を受け流すように俺はライアーの赤い髪だけを見つめていた。
俺はただあの時代を復活させたくないだけなのに、なんでこんな仲間みたいなことになっているのだろうか。
ため息を吐きそうになったが、燕に声を掛けられそうな予感がしたのでやめておいた。

俺はそっと目を細めてこれからのことを考える。
きっと一筋縄ではいかない。


〜つづく〜


三十七話目です。
戦いまでいかない!!