複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.295 )
日時: 2013/02/02 07:40
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)


40・Profits which are never possible.


雷暝。
赤女を連れ去って、俺たちにゲームと称したバカげた御遊びを突きつけてきた男の名前だ。かつては俺と一緒にクオのために働いたことのある男。
その男の名前が達羅の口からきけるとは思ってもみなかった。怒りに軽い眩暈を覚える。
パル・トリシタンまでをも連れ去っているなんて。いったいなんのために。
アイツの考えていることは全く分からない。

『嘘吐き』

ガンと揺さぶるような衝撃だった。
それは間違いなくクオの声。
まだ俺が赤い嘘吐きと世界から呼ばれて居ないときの話。まだクオとユコトに拾合われて日が浅い日のこと。
クオは少年のような少女のような声で俺をそう呼んだ。そして赤い髪と赤い目の印象からこの二つ名をつけたのだ。
赤い嘘吐き。レッドライアー。
なんであの日のことを思い出すんだ。俺は必死に別のことを考えた。

今は赤女とパル・トリシタン、そして雷暝のことを考えるべきだ。
俺たちは進まなければならない。
アスラの目的はまだわからない。でも信用して側に置いておく分には全く支障はないと思う。
腹に傷を追っているのにもかかわらず何時物平然とした顔を保っている。
あの日、凪を助けようと必死になって居る時に助けてくれた。手を貸してくれた。
あのときのことは本当に忘れたくない。アスラが居なければ今きっと凪はクイーン・ノーベルのところにはいない。

俺は達羅の瞳をしっかりと見返した。

「……俺たちの仲間の一人の雪羽っていう女も、雷暝に連れ去られた」

言ってみると達羅だけじゃなくてカーネイジ・マーマンの三人が全員驚いたみたいだった。一番驚いている様子なのはアシュリーで、今にでも質問をぶつけてきそうだ。
燕と一緒に戦ったのなら、赤女とも面識があるということだろうか。
赤女は燕の側から抗争を止めようとしてくれていたに違いない。アイツはバカだけど、バカだからこその行動力があると思っている。臆病でも臆病なりに頑張ってくれていたのだ。

「それって……」

達羅が何か言いだしそうだ。お互いの沈黙は決して苦しくない。
お互いのために、今は一時休戦の方がいいだろう。そして目的が同じならば、協力と言う道もある。
達羅がムーヴィを見上げた。ムーヴィは不機嫌そうな顔をしていたけれど、辰らに見上げられて困惑したように顔をひきつらせた。
そして俺の顔をじっと眺めてから諦めたように頷く。

「一緒に行かないか。お互いにマイナスな面は無いと思う」

そう切り出したのは意外にもムーヴィだった。
俺は悩んだ。
マイナスな面は無いが、それはそれとしてもプラスな面があるわけじゃない。
感情移入してしまうかもしれない。そうなったのならクオの依頼が達成しにくい。
まぁ、俺なら大丈夫だろう。
クオは絶対だから。それを理解している俺なら。


〜つづく〜


四十話目です。