複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.297 )
日時: 2013/02/04 20:56
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)


42・The existence which must be.


達羅の目は真剣だった。
コイツの目が真剣じゃなかったことなんて無いんじゃないのかもしれない。コイツは何時だって真剣なのかもしれない。
コイツは真剣に生きている。生きると言う行為が全くコイツ等にとっては当然のことじゃないから。息を吸える事が、自分の思考があることが、自分の選択が存在していることが、当然じゃないんだ。特別なんだ。
コイツ等には全く自由が与えられてこなかったのだろう。

俺は目をつむりそうになったけれど、踏ん張って今度は達羅をグイッと引き寄せてやった。アイツの鼻と俺の鼻が触れ合っている。ぎょっとしたように達羅は目を見開く。
ざまぁみろ。
今コイツはきっと爪先立ちを強いられているはずだ。

「んなこというなら俺だって赤髪なんかじゃなくてレッドライアーだから!!」

俺は叫んでから達羅の手を振り払うようにして離した。
達羅は驚いた表情のまま止まっていたけれどすぐににやっと笑った。嬉しそうに笑うその笑顔がやけに子供っぽくてバカっぽくて、赤女を彷彿とさせるものだからやけに胸が苦しくなった。

アイツは今無事だろうか。
酷い目にあって居ないだろうか。もしかしたら、薬漬けとかにされているかもしれない。女として酷い目にあわされているかもしれない。
アイツはバカだから。弱いから。だから俺が守ってやらないと。
アイツの黒髪と黒めのためにも。

どうやら複雑な表情を作っていたらしく、燕が心配そうな顔で俺を覗き込んで着た。
そんな黒く見えるほど緑色の頭を撫でてから、俺はみんなを見渡した。
達羅とムーヴィも加わった。
多分、勝てる。っていうか絶対に勝つ。

俺は目を閉じてから息を吐いた。

「……じゃあ、いくか」

無言の肯定だった。俺たちに今必要なのは無駄な熱気じゃない。相手を信じることと、自分を見失わないこと。
きっと達羅とムーヴィとアシュリーは俺たちに手を出さない。パル・トリシタンの話も本当だと思う。
だからこそ、疑心暗鬼に陥らないように。自分を保てるように。

赤女は必ず助ける。助けて俺が赤女の黒髪と黒目を欲しがっている事を話そう。そのためにそばに置いて居るんだっていうことも話そう。
それで俺を拒絶でもするならば、俺は赤女が嫌がっても離してやらない。
俺には黒い髪と黒い目が必要なんだ。俺には、絶対に。
この思いを知って、それでもついてきてくれるなら二人で凪を迎えに行かないとな。
アイツ、俺たちのことをきっと心配しているよ。アイツ、だって俺たちの仲間なんだから。居なくちゃいけない存在なんだから。

俺は空を見上げた。晴れていた。でももう少しで日が沈みそうだった。
俺たちはスピードを上げた。上げずにはいられなかった。

今すぐにでも会いたい人が居るから。


〜つづく〜


四十二話目です。
いつのまにか四十いっていました。
今は確か256話です。半分越しています。